研究紹介

インタビュー

がん細胞が転移・増殖する様子を視覚的に理解

今村教授はルシフェラーゼタンパク質を入れ込んだマウスの乳がんを移植したマウスにルシフェラーゼタンパク質の基質であるルシフェリンを投与し、超高感度CCDカメラで経時的に撮影することで、がん細胞が肺に転移する様子を観察した。移植後、がん細胞は増殖し続け、がんはどんどん大きくなるが、移植3週後からがんの中心部のがん細胞が死んでいくことが確認された。

「急激に大きくなったことで、がん細胞の中心部まで栄養や酸素が行き渡らなくなって細胞死したのだと考えられます。この状態は、がんにとって飢饉みたいなもの。かつて人類は飢饉が起こると生きる環境を求めて大移動しましたが、がんも同じで、飢餓状態に陥ったがんは新しい環境を求めて移動すると考えられます。これが転移です。移植4週後のマウスのイメージングでは肺にごく小さな転移巣が認められました」

移植4週後のマウスから肺を取り出して顕微鏡で観察したところ、一見、がん細胞が転移している痕跡は見つからなかったが、詳しく観察すると小さい転移巣が多数見つかった。これは、生物発光イメージングを用いることで、目視ではわからないごく早期の肺転移を観察できることを意味する一方、移植6週後のマウスでは肺全体に白いコブのようなものが多数観察され、ところどころに出血もあり、目視でもがんの転移だと分かるレベルになっていた。端的に言えば末期がんの状態である。

研究成果を診断や治療に生かすためには末期がんではなく、初期のがんを知る必要がある。イメージングならごく小さながんでも観察できるので、初期段階からがん転移の研究が可能だ。今村教授は「従来の手法ではなし得なかったレベルの世界を観察できるところに、イメージングのアドバンテージがある」と説明に熱を込める。

また、今村教授は乳がんに多い骨転移についてもイメージングを行った。

大阪大学歯学部の米田教授らが開発した手法に基づき、ヌードマウスの左心室にルシフェラーゼタンパク質を入れ込んだヒトの乳がんの細胞を注射し、その直後にルシフェリンを投与し、超高感度CCDカメラで撮影すると、がん細胞が全身に播種する様子が観察できた。その後、経時的に生物発光イメージングを行うと、1週間後にはほとんどのがん細胞が消えていた。これは、がん細胞は血管内で足場がなく不安定なのでその大半が死滅したと考えられる。ところが、移植3週後には骨においてがん細胞が増殖する様子が観察された。これは、一度全身に播種したがん細胞が特定の臓器でのみ生存し、そこで増殖することを意味する。これはがん転移に臓器指向性があることを意味し、実際に、臨床上、乳がんや前立腺がんでは骨転移が、大腸がんでは肝転移が多いことが知られている。100年前に、パジェット博士は、このがんの転移の臓器指向性を、がんを種(シード)、転移先を土壌(ソイル)に喩え、「シードとソイルの仮説」を提唱している。

骨転移の診断には通常レントゲンが使われるが、移植3週後のマウスをレントゲンで見ても変化はわからなかった。レントゲンはがんではなく、骨を見るツールゆえに、破骨細胞が増殖して骨が溶け出すまでは異変に気づけないのである。

「レントゲンで変化が認められたのは移植5週後のマウスでした。乳がんが骨に転移しやすいことはよく知られた事実ですが、今回、骨に対する指向性を視覚的に示すことができました。しかも、イメージングは骨が溶け出す前の転移直後から観察できますから、早期に骨転移を食い止める治療薬の開発につなげられるのではないかと考えています」

注釈
【線維芽細胞増殖因子】英:fibroblast growth factor(FGF)
線維芽細胞増殖因子は20種以上の ファミリーを 形成している多機能性細胞間シグナル因子である。線維芽細胞の増殖や血管新生、さまざまな細胞に対して増殖活性や分化誘導など 多彩な作用を行う。