研究紹介

インタビュー
プラスミンの機能をコントロールしてがんの抑制へ

課題は、プラスミンがコントロールできるMMPの種類が限定的で、MMP-9など幾つかのMMPには効果的だけれども、他の多くのMMPにプラスミンが影響を与えるわけではないことだ。しかし、がんの種類によって作用するMMPの種類は異なると考えられており、限定的であることは逆に、MMP-9などが多く存在するがん細胞に対しては標的(ターゲット)にできるわけである。それは、より限られたMMPをピンポイントで阻害する新しいタイプの抗がん治療薬の開発につながることを意味している。


がん細胞は、大きくなるために常に細胞外基質を溶かしてスペースを広げる作業をしており、MMPの放出量は正常の細胞に比べ何十倍、何百倍もの量を出していると言う。前に記したように、MMPは酵素(プロテアーゼ)の一群で細胞の移動や増殖に不可欠の物質である。また、MMP阻害剤の副作用の事例は、すべてのMMPをブロックしたために起きた反応や薬剤による反応など、複合した要因があると考えられている。それ故に、ピンポイントで限定したMMPに影響を与えられるプラスミン阻害剤は、副作用の軽減・解消という点でも期待がもてそうだ。


ハイジッヒ准教授は「最近、プラスミンのシステムをブロックしたら一部のリンパ球系の血液がんの増殖はかなり阻害できました。もう少し多種類の株で試してみないと分かりませんが、将来性のあるデータだと思います」とアイディアの具体的成果を得て喜んでいる。海外からの若手研究者も交えて英語が飛び交う研究室では、現在、マウスの実験で一部のがんに対してプラスミンの効果を確認できたので、さらに大きな動物で多くの種類のがん、とりわけ固形がんにおける作用を確認しようとしている。一歩一歩着実に成果を上げて、数年後には臨床治験が行える段階をめざしている。


意欲的に進めている研究について、「骨髄から来る細胞の多くは、動くためにMMPを必要としています。だから骨髄細胞由来の白血病やリンパ腫等の動くがん細胞もターゲットにできるかもしれません。将来性のある研究だと思います」とハイジッヒ准教授は語っている。


骨髄由来細胞(茶色)の腫瘍への浸潤

TEXT:阿部芳子 PHOTO:荒井邦夫
取材日:2011年1月13日
更新日:2012年7月18日