研究紹介

インタビュー
MMPからプラスミンへ-より効果的な機能をもつ酸素を探す

約10年前に、欧米を中心に、このMMPの阻害剤(インヒビター)をがんの患者さんに試験的に投与した事例があった(治験)。MMPの活性化を抑えることで、がんの浸潤・増殖を抑制しようとしたのである。MMPの阻害剤は過去50年近くにわたって開発が進められたものであったが、結果としては、がんの増殖を抑制する効果はあったものの、体のほかの組織にもMMPがあるために、正常な組織にも阻害剤が作用してしまい、患者さんの深刻な副作用が問題となって欧米での治験のほとんどが中止になり、それ以降、日本ではその阻害剤の使用が中止された。


ハイジッヒ准教授は「MMPより上流のシステム(機構)ならば、もっとタンパク質をコントロールできるのではないか」。つまり、MMPを制御している“管理者(別の因子)”を見つければ副作用を回避できるかもしれないと川下から川上へと視点を転換し、いろいろな上位システムの機能の解析に集中した。そして最近、着目したのが「プラスミン」という物質だ。


プラスミン──これも酵素の一種で、プロテアーゼの一群に属する血液線維素溶解系と呼ばれる酵素群の中心となる物質である。昔から血液の凝固をコントロールしていることで広く知られている酵素だが、近年、それ以外のさまざまな役割もあることが見つかり、MMPの制御や活性をコントロールしていることが分かったのである。


ハイジッヒ准教授は、プラスミンの機能を変えることでMMPをコントロールできるのではないかと考えている。つまり、骨髄から来た細胞が出しているMMPは一群で存在し、 その種類や組み合わせによってがんが浸潤を始めたり、血管新生して転移を始めたり、さまざまにがん細胞の増殖のために働く。だから、プラスミンを介してMMPの方向性をコントロールできれば、がん細胞の構造や性質などを変えることができるかもしれない。また、がんが大きくなるのを止めたり、転移しにくくしたり、転移を防ぐこともできるかもしれないというアイディアである。実は、この種の薬剤が一部のがんを抑制することは、共同研究を行っている神戸学院大学薬学部から報告されていたのだが、そのメカニズムについて詳細は明らかにされていなかったのだ。


heissig

注釈
【阻害剤(インヒビター)】
英語 inhibitor。「反応抑制剤」「阻害物質」ともいう。阻害とは働きを妨害することであり、阻害のしかたには種々のタイプがある。酵素の阻害剤は、酵素の特定の部位に作用して本来の反応速度をより低下させる目的で使われる。

【血管新生】
血管があらたに形成されること。用語は腫瘍の増殖のときに使われることが多い。がん細胞の病巣では栄養不足と酸素不足が起こるため、状態を改善しようと新しい血管網を構築しようとする。