研究紹介

インタビュー
白血病やリンパ腫にかかわる骨髄細胞の研究から

近年、各種酵素の働きを解明して利用することは医療に限らず、食品や化学においても大変盛んである。何がきっかけで、ハイジッヒ准教授はこのMMPに注目したのだろうか。


ハイジッヒ准教授は、ドイツで7年間主に血液・腫瘍科の医師として務めた後、アメリカの著名ながん研究機関に移り、続いてコーネル大学でポスドク(post-doctoral fellow博士研究員)として造血、骨髄微小環境の研究に携わった。特に白血病やリンパ腫等の血液系がんの機能について興味をもっていた。研究の世界へ足を踏み入れたのは、医師として現場で血液がんの患者さんと接するなかで、なかなか思うような治療効果が得られないもどかしさから、より効果的で新しい薬剤開発につながる研究をしたいという思いがきっかけであった。


ご存じのように、骨髄に含まれる造血幹細胞は、血液の細胞(赤血球、白血球、リンパ球、血小板など)をつくり出し、生まれた細胞は血管を通じて全身に運ばれる。白血病やリンパ腫、骨髄腫などという病気はこの骨髄やその周辺に何らかの異常が起きた場合に発症すると考えられ、俗に“血液のがん”と呼ばれている。ハイジッヒ准教授は、この骨髄に由来するさまざまな細胞(骨髄由来細胞)が体内のさまざまな場所で見られることに疑問を抱き、なぜその場所で見られるのか、骨髄細胞の他組織への移動(動き方)について調べてみたそうだ。ただ、そのときは、サイトカインやケモカインなどいろいろなタンパク質が細胞の移動をコントロールすることまでは突き止めたものの、それらの詳細な役割までは追究しきれなかったそうだ。


知られている機能のほかにも何か特別な役割があるかもしれないと考えていたハイジッヒ准教授は、2001年から2002年にかけて、これらのサイトカイン、ケモカイン群にMMP-9(エム・エム・ピー・ナイン)を活性化する作用があることを明らかにし、これを報告した。2003年、日本に研究の場を移してから、骨髄細胞が他の組織へ移動するための“起点となる酵素MMP”をはじめとするプロテアーゼ群の役割にあらためて注目し、本格的にMMPの機能について解析を始めた。


heissig

注釈
【造血幹細胞】
英語 hematopoietic stem cell(HSC)。造血機能をもつ幹細胞で「血球芽細胞」「骨髄幹細胞」ともいう。ヒトの場合、主に胸骨、肋骨、脊椎、骨盤など体幹の中心にある骨の骨髄に存在する。赤血球、白血球、リンパ球、血小板など血液となる細胞を生み分化しながら、幹細胞自身も自己複製を繰り返す。

【サイトカイン】
英語 cytokine。免疫や炎症などに関係した細胞から分泌されるタンパク質の総称。免疫作用・抗腫瘍作用・抗ウイルス作用・細胞増殖や分化の調節作用などの機能をもつ。例えば、インターフェロン、インターロイキンなどが含まれる。

【ケモカイン】
英語 chemokine。ケモカインはサイトカインの一群を成すタンパク質。さまざまな体細胞で産生され、白血球などによる炎症の形成に関わる。