研究紹介

インタビュー
どうして胃がんは起きるのだろう? ピロリ菌は、ヒトの胃の中に住んでいるバクテリア(細菌)という微生物で、1983年に発見された。その後の研究から、ピロリ菌の感染が胃潰瘍や慢性胃炎、常に胃の調子が悪いというような胃の病気を引き起こしていることが分かった。さらに21世紀に入り、胃がんの発症にも密接に関係していることが明確になったのである。

ピロリ菌と胃がんとの関連を検証する大規模な疫学調査が行われ、その結果“ピロリ菌に感染していない人からは、胃がんは発症しない”、という結論が導かれた。畠山教授は、「まったく明白な疫学調査だったものですから、非常に大きな論文になり、これを契機に世界的にも、ピロリ菌感染が胃がんの真犯人だという感覚が生まれてきたのだと思う」という。つまり、胃がんを起こすためにはピロリ菌感染が必要条件ということが、この10年弱の研究から分かったのだ。

結果、胃がんは、今まで考えられていたがんとは全然違うタイプのがんであり、ピロリ菌を身体から駆除すれば胃がんは起きなくなり、“予防すら可能ながん”であることが判明したのである。畠山教授は「胃がんのごく一部がピロリ菌と関係しているということではなくて、感染がなければ基本的に胃がんは起きない、と頭を切り換えてもらわないといけない時代になってきたわけです」と強調した。ピロリ菌が関係しない特殊な胃がんもあるが、一般的な日本人の胃がんの場合、そのほぼ全てがピロリ菌感染により引き起こされると理解する必要がある。

当時、ウイルス発がんの研究をしていた畠山教授にとって、細菌(バクテリア)による発がんもあるかもしれないと考え始めた矢先のピロリ菌発見だった。そこで、一つの可能性としてピロリ菌感染と胃がんとの間に因果関係あるかもしれない、と畠山教授は考えた。「どうして胃がんは起きるのだろうか? ピロリ菌感染で胃がんが起きるのだろうか? 発症のメカニズムを知ることは、ただ単に胃がんが治る・治らないということだけでなく、大腸がんや膵臓がんなど、消化器にできる他のがんのメカニズムを知るという点でも、非常に大事な研究になる。ピロリ菌と胃がんとの研究を理解することによって、より広い一般的ながんの発症のメカニズムを理解することにもつながるんです」。
畠山昌則教授

注釈
【疫学調査】
疫学調査は1526人を対象に行なわれ、そのうち1246人がピロリ菌感染者、280人がピロリ菌 非感染者の集団。調査の開始時点での胃がん発症者は0、胃に関する病気もないという状態で、10年間にわたって胃がん発症の有無に関する調査が行なわれた。その結果、感染者の中から36人が胃がんを発症し(年間発症率 = 約0.3%)であったが、非感染者からの胃がん発症は0であった (文献 Uemura et al. N Engl J Med, 345, 784-789, 2001)。
【ウイルス】
英語virus。細菌(バクテリア)よりもさらに微小な構造体。細胞を持たず、たんぱく質の合成ができないことから生物学上では非生物として扱われているが、細菌や細胞などに寄生して影響力を持つことから、生命体として扱うか否か議論が分かれている。