研究紹介

DNAの損傷を乗り越え、そのまま複製を進めるポリメラーゼを発見!その多彩な機能を探る 花岡文雄教授
生物の遺伝情報を担うDNA(デオキシリボ核酸)は、2本の鎖がらせんを描いている、直径約2ナノメートルの極細なひもである。ヒトの場合、1つの細胞に含まれるDNAをつなぎ合わせると約2メートルにおよび、そこに約2万個の遺伝子が存在する。二重らせんは化学的に安定な構造とされるが、紫外線、活性酸素、ベンツピレンなどによって損傷を受ける。とくに紫外線は、日常的にきわめて多くの傷を誘発している。学習院大学の花岡文雄教授らは、細胞に「DNAの傷を乗り越えて複製するための酵素」を発見し、その機能解析を進めている。

紫外線で皮膚がんになる遺伝病を対象に、DNA修復の研究へ

福島第一原子力発電所の事故以来、放射線の人体への影響が重大視されるようになっている。放射線は、遺伝物質であるDNAに対し、鎖の切断、塩基の喪失や修飾といった有害な作用を及ぼすことがわかっている。こうしたDNA損傷が皮膚や消化管など、盛んに増殖する細胞でおきると、細胞死やがん化を誘発する。

ただし、微量の放射線は、常に宇宙から降り注いでおり、また太陽光中の紫外線や、生物が生きるために欠かせない酸素から生じる活性酸素にも、DNAを傷つける作用がある。たとえば、紫外線によるDNAの傷は、細胞1個あたり、24時間で数万にも上ると推定されている。ところが、日常のこのような環境が、健康な人にがんを誘発する可能性は、極めて低い。生物には、DNAに誘発された傷を修復するしくみが備わっているからである。

DNAの傷を修復するメカニズムの解明は、「色素性乾皮症(xeroderma pigmentosum; XP)」という遺伝子疾患の研究によって主に進められてきた。「この病気は、紫外線にあたるときわめて高い確率で皮膚がんになり、神経系も冒されることがあります。1968年に、DNAの除去修復機構に関与する遺伝子の異常で引き起こされることがわかり、原因遺伝子の探索とともに、除去修復機構のしくみが明らかにされてきました」と花岡教授。

もともとは東京大学薬学部において、哺乳類細胞を用いてDNA複製に関与する「ポリメラーゼα」という酵素の機能解析を行っていたという花岡教授。「1989年に理化学研究所(以下、理研)で自分のラボを持つことになり、XPを用いたDNA修復機構の研究を始めました」と話す。当時は、複数のXP患者の細胞を融合させる解析によって、XPには8つのタイプ(A〜G型とV型)があることがわかり、大阪大学の田中亀代次教授が、XP遺伝子としては世界で初めてA型の原因遺伝子のクローニングに成功したところだった。


【ヒトのDNA依存性DNAポリメラーゼファミリー】
ヒトのDNA依存性DNAポリメラーゼファミリー
花岡文雄 花岡 文雄(はなおか ふみお)
学習院大学 理学部 生命科学科 教授

1968年 東京大学薬学部卒業(製薬化学科)
1973年 東京大学大学院薬学系研究科博士課程修了(薬学博士)
1973〜1976年 東京大学薬学部助手
1976〜1978年 米国ウィスコンシン大学マッカードル癌研究所リサーチアソシエイト
1978〜1980年 東京大学薬学部助手(復職)
1980〜1989年 東京大学薬学部助教授
1989〜1994年 理化学研究所主任研究員
1995〜2002年 大阪大学細胞生体工学センター教授
1995〜2006年 理化学研究所招聘主任研究員(兼務)
2002〜2007年 大阪大学大学院生命機能研究科教授
2007〜2009年 学習院大学理学部教授(化学科、生命分子科学研究所)
2009年〜 学習院大学理学部教授(生命科学科、生命分子科学研究所)