研究紹介

インタビュー

TLSポリメラーゼは、がん化だけでなく進化の鍵も握る

その後、2007年に学習院大学に赴任し、文部科学省 新学術領域研究のプロジェクトとして、ポルη遺伝子のノックアウトマウスの開発や、TLSに関わる他のポリメラーゼ(TLSポリメラーゼと総称される)との役割分担や機能解析を進めている花岡教授。「これまでに、ポルη遺伝子の欠損マウスに紫外線をあてると、13週目くらいから背中と耳に腫瘍ができ、最終的には全マウスに皮膚がんが発症すること、ポルηの兄弟分であるポルι(イオタ)遺伝子も併せてノックアウトしたマウスでは、より早くからがんになり、表皮部分のがんだけでなく、深い部分に肉腫ができることなども明らかにしています」と話す。「一方でポルηはとても多彩な機能を持つタンパク質で、遺伝子の相同組換えとか免疫グロブリンの体細胞超突然変異にも働いているということを他の研究グループとの共同研究によって明らかにしました。さらに米国の構造生物学者と協力して、紫外線損傷を持ったDNAとヒトのポルηとの共結晶の構造解析を行って、本来、折れ曲がりやすい構造している紫外線損傷DNAに、ポルηが添え木のように働いて複製しやすいように真っ直ぐにするという特殊なタンパク質構造をしていることも分かりました」と花岡教授。

「本プロジェクトでは、TLSに関わる複数のポリメラーゼについて、一つずつ機能を特定し、相互作用などについても解析していくのが第一の目標です。また真核細胞のDNAはクロマチンというタンパク質との複合体の形で細胞核の中に存在しており、そのクロマチン構造とTLSとの関連を明らかにするのがもう一つの目標です。私の研究は生物学の基礎となる領域ですが、どうしたらがん治療に貢献できるかを常に考えています。なかなか難しいのですが、例えばポリメラーゼηに結合する低分子化合物を探索して、酵素活性を高めたり抑制したりできれば医療応用が可能かもしれません。一方で、TLSは『ある頻度』で能動的に遺伝子変異をおこしてきたはずで、40億年におよぶ生物進化の原動力になったのではないかとも考えています」と話す。
がん化と進化という、一見かけ離れた現象の鍵となるTLS。そのしくみに迫る、さらなる研究成果に期待したい。


花岡文雄


TEXT:西村尚子 PHOTO:荒井邦夫
取材日:2013年1月16日