研究紹介

乳がんと肺がんに役立つバイオマーカー、分子標的の開発をめざす システム生物学的手法を用いたがん幹細胞の新規分子標的の同定 東京大学医科学研究所 後藤典子 特任准教授
乳がん幹細胞はどこから発生するのか、そして、肺がんの増殖因子シグナル伝達による複雑な増殖メカニズムはどこまで解明できるのか。分子システム生物学を駆使して、未整備な領域で分子標的抗がん剤の開発をめざしていきたい。

がん遺伝子への興味から始まった研究生活

後藤典子特任准教授の現在の研究テーマは、「乳がん幹細胞と肺がんの増殖因子シグナル伝達を切り口とした分子機構の解明から得られる新規分子標的」である。増殖因子のシグナル伝達とはどういうものか ── 一般にはあまり馴染みのない言葉である。

後藤准教授が研究を始めたのは20年前、まだ金沢大学の学生であった。後藤准教授は「生化学の講義で『分子生物学の夜明けの時代を迎え、細胞の中で何が起こっているかが今まさに分かりつつある。がんの正体は遺伝子がおかしくなってがん遺伝子になるのではないか』というようなお話があり、“今研究を始めたら、分からないことも解明できるかもしれない”と思ったのです」と、当時の気持ちを語った。

そして、東京大学医科学研究所(医科研)の免疫学の教授、狩野恭一先生に弟子入りしようしたら、「がん遺伝子の研究をやりたいなら、がんの患者さんをよく見てからにしたほうがよい」と言われて、東大病院の第三内科で研修を始めた。指導医の先生からは「がんは不治の病だから患者さんに“あなたはがんです”と決して言ってはいけない」と言われたそうだ。今はがん告知が普通に行われているけれども、当時は告知がタブーだった。

臨床研修の後、医科研の渋谷正史教授のもとで本格的に研究を始めた。その当時は、細胞の核の中にDNAがたくさんあること、遺伝子がコードされていること、遺伝子からメッセンジャーRNAを介してタンパク質ができて細胞が機能していることまでは解明されていた。しかしタンパク質が何をしているのかは分からなかった。また、遺伝子に傷がつくと増殖因子の受容体などに変異したものができて、細胞ががんになる引き金を引くようだという説があったそうだ。

後藤 典子

後藤典子後藤 典子(ごとう のりこ)
東京大学 医科学研究所 分子療法分野/がん分子標的研究グループ 旧システム生命医科学技術開発共同研究ユニット 特任准教授

昭和58年4月 金沢大学医学部入学。
平成元年3月 同上 卒業 、4月 東京大学大学院臨床医学系入学(高久史磨教授)、6月より東大病院第三内科にて臨床研修
平成5年3月 医学博士、6月より東京大学医科学研究所・助手
平成10年8月〜13年8月 ニューヨーク大学医学部にて博士研究員
平成14年 東京大学医科学研究所・腫瘍抑制分野・講師
平成17年 同 助教授
平成19年 同 独立、現在に至る。医学博士


注釈
【血管内皮細胞増殖因子・増殖因子受容体】
英:Vascular Endothelial Growth Factor 、VEGF。Vascular Endothelial Growth Factor Receptor、VEGFR 血管内皮増殖因子(VEGF)は血管内皮細胞の増殖・遊走の促進、血管透過性の亢進、単球・マクロファージの活性化などを引き起こす。増殖因子受容体(VEGFR)は、増殖因子の刺激情報を得て発現に関与する機能を有している。