研究紹介

インタビュー

21世紀のがん治療について考える

後藤准教授は、「21世紀のがん医療は個別化の時代であって、個別化の医療が重要であるとよく言われる。これはどういうものかというと、個々の患者さんによって多様ながんの特徴を把握して手術、あるいは最適な分子標的に対する抗がん剤の治療が中心になる。しかし現実には、最適な分子標的がまだ分かっていない。あるいは病態を表すようなバイオマーカー(がんマーカー)、そういうものがほとんど未整備な状況にあります」。

そして、乳がんと肺がんが主になっているが、今後の診断治療の流れは下図のようになるのではないかと考えている。

「個別化医療への実現には多様な用途に合ったバイオマーカーが必須ですけれども、その同定・開発はこれからという状況です。乳がんは日本では女性の20人に1人、欧米では7人に1人が罹患します。他人事ではない。がん幹細胞が冬眠している可能性もあり、術後20年経っても再発のリスクはあります」

一方、肺がんは世界の統計によると、男女共に最も死亡率が高いという状況になっている。日本でも肺がんの死亡数が過去10年で10倍に増加している。これは高齢化とも関連あるそうだが、特にタバコと関係ない肺腺がん(Adenocarcinoma)の増加が非常に多くなっているらしい。早期のステージ1で見つかるケースも多くなっているが、それでも5年以内に再発して死亡する患者さんが数十%、最も早期の1Aでも約20%の患者さんが5年で亡くなってしまうという状況だ。

「私は分子システム生物学(有機的融合)と呼んでいますが、バイオインフォマティクスを取り入れて、がん幹細胞、あるいはがんの増殖因子のシグナル伝達を解析することによって、がんの早期発見、再発診断、病勢判断など、これからの個別化医療に必要なバイオマーカーや分子標的が解明され、実際に臨床にもっていける兆しが見えてきているのではないかと期待を持っております」。

「私自身の今後の方向性としては、前述のバイオマーカーに続けて分子標的の同定。同時進行として、がん幹細胞が伝える分子機構の解明につなげていきたいと考えています。本当に近未来だと思うんですね。今後の10年、20年、日本発のバイオマーカー、分子標的抗がん剤を開発していきたい。がんの早期発見と根治、健康な長寿社会の実現を目指したい。研究を始めてきてようやく、こういう時代がきたのかなという思いです。がんの基礎研究が次々に実を結ぶ時代ではないかというふうに考えています」。後藤准教授の眼は、研究のさらなる進展を予測しているようだった。

TEXT:阿部芳子 PHOTO:荒井邦夫
取材日:2012年1月13日