研究紹介

インタビュー

増殖因子シグナルの伝達って何だろう

後藤准教授はまず、どういう状態が正常なシグナル伝達なのかを知るために、アメリカの著名なシグナル伝達の研究者のところに留学した。後藤准教授によれば、1990年頃は“がん遺伝子ハンターの時代”と言われていたそうで、世界中で研究者ががん遺伝子を見つけようとしていた時代だった。

シグナル伝達に関わる増殖因子というのは、遺伝子からメッセンジャーRNAを介して発生する。増殖因子は細胞外に分泌されて体の中を回るのだが、細胞膜のところにある増殖因子受容体にくっつくと、増殖因子は細胞外から細胞内へ“増殖しなさいという命令”を起こす。その経路を「シグナル伝達」と呼ぶ。

具体的には、増殖因子FGFの“ある受容体”が活性化するとFRS2という分子にシグナルが伝わり、増殖の他にもいろいろな現象を起こすことが分かったのである。FRS2は、目、脳、骨、心臓などを作り出すこと(発生)に重要な働きをしている分子で、組織細胞の発生だけでなくいろいろな幹細胞も、FRS2が機能しないとうまく維持できないことが分かった。要するに“司令塔”の役割を持っていたのだ。増殖因子は他にもいろいろな増殖因子があり、それぞれに司令塔があるのだが、増殖因子FGFのシグナルに関してはFRS2というのが唯一の司令塔である。

【増殖因子と増殖因子受容体の関係】
増殖因子と増殖因子受容体の関係

FRS2の機能について、正常なマウス(左側)とFRS2をつぶしたマウス(右側)で比較してみると、形状はモンスターのようになり、目は小眼症になり、手足や尻尾もできていない。背骨は湾曲したまま。肝臓はお腹から飛び出て閉まらなくなっている。正常な場合は発生のときに消化器が体の外でできるが、生まれる前に体の中に入って閉じられる。FRS2という分子が1つ欠損するだけで、成体として機能できないものになって、生まれるとすぐに死んでしまう。

【マウスに現れたFRS2分子の機能(左:正常、右:欠損)】
マウスに現れたFRS2分子の機能(左;正常、右;欠損)

組織には特異的な幹細胞というのがあり、すべて作り出すことができるのが幹細胞である。例えば、正常なマウスから取り出した正常な神経幹細胞1個を培養すると、約2週間で300個ぐらいのマリモ状を形成して、細胞の凝集塊(ぎょうしゅうかい。スフェア)ができる。しかし、FRS2をつぶしてしまうと、幹細胞は存在するけれども全く増えない状態になる。これもやはり、増殖因子FGFのシグナル伝達がうまくいかなかったために起きた現象である。

注釈
【線維芽細胞増殖因子】英:fibroblast growth factor(FGF)
線維芽細胞増殖因子は20種以上の ファミリーを 形成している多機能性細胞間シグナル因子である。線維芽細胞の増殖や血管新生、さまざまな細胞に対して増殖活性や分化誘導など 多彩な作用を行う。