概要・活動内容

国際交流委員会

United States & Canadian Academy of Pathology Annual meeting 2016参加報告

がん研究会がん研究所 発がん研究部研究生
吉本 豊毅


平成27年度新学術領域研究「がん支援」国際交流委員会の海外派遣事業での助成をいただき、平成28年3月12日から18日に開催された米国・カナダ病理学会議2016(USCAP; United States & Canadian Academy of Pathology Annual meeting 2016)に参加して参りましたのでご報告させていただきます。USCAPはアメリカ、カナダをはじめ、世界の多数の国から病理医、研究者、臨床医が参加する世界最大級の病理学会です。各分野のエキスパートによる講演が多くの会場で行われ、病理診断学に関する最新の知見が報告されます。ポスターによる演題発表もレベルの高いものが非常に多く、活発な議論が繰り広げられます。

今年のUSCAPはアメリカ西海岸シアトルで開催されました。会場のワシントン州コンベンションセンターはシアトル市内のダウンタウンの中心部にあり、多くのホテル、レストランが周囲にあるなど非常に利用しやすい場所にあります。シアトルは緯度としては北海道より北に位置しているときいて厳しい寒さを想像していたのですが、地形や海流の関係から比較的穏やかな気候になるそうで、滞在中は東京の冬とそれほど変わらない程度でした。シアトル市内で桜を見かけて驚きましたが、かつて日本から送られたものを含めて数千本の桜の木があるとのことです。

7日間と長い学会ですが、講演、レクチャーは毎日朝早くから夜遅くまで企画されています。 全体を通してみると特に次世代シーケンサー(NGS)が診断分野に大きく進出してきている印象があり、実際NGSをテーマにしたセッションは広い会場が多数の参加者で埋められ、診断学におけるNGSの活用について活発に議論が展開されていました。今後はNGSを用いた変異解析がさらに進展し、変異遺伝子による腫瘍の細分類が加速するとともに、診断的活用の比重が増してくる可能性を感じました。

学会4日目の夜にjapan nightというパーティーが学会会場近くのホテルで開かれ、重鎮の先生方も含めて日本からの参加者が多く集まりました。このような交流の機会があるのもUSCAPの大きな楽しみの一つです。私が所属するがん研究会からも病理部長の石川先生をはじめ複数の先生方が参加しました。意外とふだん交流する機会のなかった若手病理医や海外で活躍中の日本人の先生方と知り合うことができました。

現在私が取り組んでいるCIC-DUX4肉腫は、小児〜若年成人に好発する高悪性度肉腫で、組織学的には小円形細胞のびまん性増生からなる腫瘍です。小円形細胞肉腫に分類される代表的な疾患はEwing肉腫ですが、組織形態学的にEwing肉腫と類似していながらEwing肉腫に特徴的な融合遺伝子を有さない肉腫は従来Ewing family tumorとして一括して扱われてきました。近年この中に特徴的な融合遺伝子を有する症例、すなわちCIC-DUX4肉腫、CIC-FOXO4肉腫、BCOR-CCNB3肉腫などが同定され、骨軟部肉腫分野の大きなトピックの1つとなっています。症例自体が非常に稀であるため、これまで症例を蓄積しての解析が十分に行われてきませんでした。そこで我々はCIC-DUX4融合遺伝子を有するex vivoマウスモデルを樹立し、このマウスモデルを用いることで腫瘍の生物学的特性を明らかにすることを目指しました。遺伝子発現解析の結果、CIC-DUX4肉腫は、Ewing肉腫とは大きく異なる発現プロファイルを有していることが分かり、特徴的な発現を示す分子がバイオマーカーとして利用できる可能性や、分子標的阻害剤のtargetとして有用であることをポスター発表で報告しました。同じセクションで小円形細胞肉腫を研究テーマとする人たちが発表しており、彼らと意見を交わしましたが、同じ肉腫研究に携わる仲間としての連帯感のようなものを感じ、互いに激励しました。
また現在共同研究を行っているMemorial Sloan Kettering Cancer CenterのDr. Christina Antonescuに会場で直接お会いすることができました。Dr. AntonescuはInternational society of bone and soft tissue pathologyのcompanion meetingでmoderatorを務められ、またEwing and Ewing-like sarcomasのテーマで明快な講演をされていました。研究協力の御礼を伝えることが今回の学会参加の目的の一つでもありましたので、講演終了を待って話しかけたところ、非常に気さくに話をしていただき、短い時間でしたが研究内容についてのdiscussionの機会が得られました。

シアトルには大リーグのシアトルマリナーズが本拠地とするセーフコフィールドや、大型航空機で有名なボーイング社の本社、大規模工場などがあります。今回はそちらに見学に行く機会はありませんでしたが、昼の休憩時間に近くのPike Place Marketという市場に出かけ、近くにあるスターバックスコーヒー1号店を見学しました。シアトルはシーフードが美味しく、特にdungeness crabというカニのサンドとクラムチャウダーは絶品です。またウォーターフロントを散歩して、学会の合間に気分をリフレッシュすることができました。

今回の学会参加では情報量の多い教育的な講演を通して知識をupdateできました。またポスター発表や海外の共同研究者との議論など、全体を通して非常に刺激的な体験ができましたし、充実した時間を過ごしました。最後になりましたが、このような素晴らしい機会を与えてくださった、文部科学省新学術領域研究「がん研究分野の特性等を踏まえた支援活動」国際交流委員会の委員長石川冬木先生はじめ委員の諸先生方、また諸手続きでお世話になりました事務局の平野尚子様に心より御礼申し上げます。