概要・活動内容

国際交流委員会

Keystone Symposia Immunometabolism in Immune Function and Inflammatory Diseaseに参加して

岡山大学大学院 医歯薬学総合研究科 病態制御科学専攻 腫瘍制御学講座 免疫学分野 助教
榮川 伸吾


はじめに

平成27年度国際交流海外派遣支援事業の助成により、平成28年2月21日から2月25日カナダのバンフ、Fairmont Banff Springsで開催されましたKeystone Symposia Immunometabolism in Immune Function and Inflammatory Diseaseに参加させて頂きました。本会では、がんをはじめ多くの疾患モデルで種々の免疫担当細胞の分化・機能における代謝経路、代謝産物の重要性が報告されました。私自身は、『2型糖尿病薬メトホルミンのCD8T細胞を介した抗腫瘍作用』についてポスター発表の機会を頂きました。メトホルミンはがん微小環境下のがん抗原特異的なCD8T細胞の糖代謝を向上させ、抗腫瘍効果を示します。本報告は、シンポジウムの内容に合っており、多くの研究者から質問があり、非常に濃密な議論また情報交換・収集に繋がりました。

学会会場Fairmont Banff Springs

代謝とがん免疫応答

近年、細胞分化・機能と代謝の関係は非常に注目されたトピックスであり、特にCD8T細胞においては、そのエフェクター機能および分化には糖代謝が重要であることが報告されています。2013年がん免疫の分野では、抗PD-1(ニボルマブ)、抗CTLA-4抗体(イピリムマブ)により悪性黒色腫患者で劇的な腫瘍縮小効果が報告され、多くの研究者が免疫チェックポイント分子を発現するT細胞の機能調節の重要性を認識しました。2014年、PD-1シグナルは糖代謝・アミノ酸代謝を抑制し、脂質代謝(lipolysis、fatty acid oxidation)を促進するという報告がNature Communicationsに発表されました。また、2015年には抗PD-1抗体治療により腫瘍浸潤CD8T細胞の糖代謝が亢進することもCellに報告されています。以上の報告から、代謝制御、特に糖代謝制御によるT細胞応答の調節はがん免疫治療において重要なポイントになると考えられます。

Immunometabolism in Immune Function and Inflammatory Disease

本会では、リンパ節、脾臓など末梢組織と比較して、腫瘍組織ではグルコースやピルビン酸といった代謝産物の量が少ないこと、腫瘍浸潤CD8T細胞内のミトコンドリア機能消失についての発表に対して非常に強い印象を受けました。腫瘍組織でグルコースやピルビン酸の量が少ないということは、CD8T細胞は好気的解糖(glucose→pyruvate→acetyl-CoA→citrate)を利用できないということになります。また、このような腫瘍組織内CD8T細胞のミトコンドリアはcristae(クリステ)を喪失しているようです。本発表では、in vitroで分化誘導した記憶CD8T細胞(memory)と短命なエフェクターCD8 T細胞(short-lived effector cell:SLEC)のミトコンドリアのクリステも観察しており、memoryでは複数のミトコンドリアが融合(fused)しており、SLECではミトコンドリアがバラバラ(fissioned)でクリステを失っているということでした。クリステの消失は、ピルビン酸→クエン酸の転換不良、好気的解糖を利用できないことに繋がります。腫瘍浸潤CD8T細胞の多くは腫瘍細胞排除のためエフェクター細胞として機能していますが、がん環境そのものがエフェクター機能を発揮するには不適切な環境(グルコースやピルビン酸が少ない)で、また細胞内の代謝状態も非常に劣悪であり(ミトコンドリアクリステの消失)、本来もつエフェクター機能が使えない状態であると言えます。Pittsburg大学のDr. Greg M. Delgoffは、腫瘍内CD8T細胞のマイクロアレイ解析からミトコンドリアタンパクの一つであるPGC1αの減少を発見しており、がん抗原特異的CD8T細胞においてPGC1αを過剰発現させ、細胞移入を行って担癌マウスにおける治療効果を観察されていました。細胞移入の腫瘍増殖抑制効果は非常に顕著であり、腫瘍内に浸潤したPGC1α過剰発現移入細胞のミトコンドリアの膜電位、大きさともにコントロールの移入細胞と比較して増大していました。また。抗PD-1抗体治療担癌マウスの腫瘍内CD8T細胞についても同様のミトコンドリア解析を行っており、ミトコンドリアの膜電位、大きさは前述の細胞移入のものに比べるとそれほど増大していませんでした。私自身は、2型糖尿病薬メトホルミンは腫瘍内CD8T細胞の糖代謝を促進し抗腫瘍効果を示すことを発表させて頂き、その効果についてのメカニズムについて議論させて頂きましたが、その分子メカニズムの詳細についてはまだ詰めて行く必要があり、本会に参加したことでどのような解析をしていかなければならないかある程度見えてきたように感じています。また、Keystone Symposiaに参加し、今後のがん免疫治療における、代謝およびミトコンドリアの機能調節によるT細胞応答制御の重要性を再認識しました。

おわりに

本学会が開催されましたバンフの街はロッキー山脈の中にあり、日常生活ではまず見られないような非常に美しい景色を見ることができました。滞在中の天候は良好で、心配していたほどの寒さや雪もなく、非常にゆったりとした時間を過ごすことができました。学会中日には6時間ほどのブレイクタイムが設定されており、多くの研究者はスキーや国立公園・近辺の湖へ散策に行かれていました。自身はそのような準備をしておりませんでしたが、またこのような機会がありましたらレジャーにも繰り出したいと思います。

バンフの中心街から見るカスケード山

最後になりますが、非常に興味深い研究報告、議論をすることができ、また非日常的環境でリフレッシュもでき、大変充実した出張をさせて頂きました。このような大変貴重な機会を与えてくださいました文部科学省新学術領域研究「がん支援」総括支援活動班の中村卓郎先生、国際交流委員会の石川冬木先生および諸先生方、ならびに総括支援活動班事務局の平野尚子様、藤田豊子様に心より御礼申し上げます。