概要・活動内容

国際交流委員会

KEYSTONE SYMPOSIA -Stem Cells and Cancer-に参加して

東京大学医科学研究所アジア感染症研究拠点
山本 瑞生


KEYSTONE SYMPOSIAは生命科学の様々な分野にフォーカスしたミーティングが行われており、今回がん研究分野の特性等を踏まえた支援活動、国際交流海外派遣支援事業のご助成を頂き、アメリカ、コロラドのBreckenridgeで3/6-3/11の日程で開催されたStem Cells and Cancerという幹細胞と癌に特化したミーティングに参加し、Poster sessionで乳腺上皮細胞の発達と幹細胞の維持機構についての発表を行いました。約30のTalkと120のPosterが5日間に渡って発表され、活発な議論が行われました。
Stem Cell and Cancerという題名にあるように、正常な幹細胞と癌、そして癌幹細胞についての発表が行われ、新たな解析技術の報告や、組織幹細胞や癌幹細胞についての新しい知見、癌幹細胞を標的とした治療についてと多岐に渡る内容でした。

夕食会場で行われたPoster sessionは19時から21時過ぎまで活発な議論が行われました。

技術的な発表では、オーガナイザーでもあるConnie J. Eavesらによるレンチウイルスを用いた細胞のバーコード技術による腫瘍クローンの動的な変化についての発表が注目されました。レトロウイルスやレンチウイルスがゲノム中に比較的ランダムに挿入されクローン毎に異なる挿入部位を持つことを利用して、Southern blotによってクローンを区別するという手法は非常に古くから取られていました。彼女らはレンチウイルスベクターを異なるバーコード配列を持ったライブラリを用いて作成し、細胞を異なるバーコード配列でマーキング後、複数クローンの集団を次世代シーケンサで解析してバーコード配列の存在比率を調べることで各クローンの存在比率を定量化しました。
この技術を用いてヒト乳腺上皮細胞をマーキングし、正常な乳腺を再構築させた場合や、Kras変異体によって癌化させた場合の各クローンの挙動を解析しました。すると正常乳腺構築時には限られたクローンが特異的に乳腺再構築に寄与し、限られた数の乳腺幹細胞が乳腺を構築する能力を持つことが示唆されたのに対し、癌化させた場合にはより多くのクローンが急速にその存在率を変化させながら腫瘍の構築に寄与することや連続的な継代移植によって新たなクローンがexpandする現象が見られ、腫瘍の不均一性はゲノム変異に依存する遅い変化ではなく環境や腫瘍細胞間の相互作用によって劇的に変化することを示しました。また、Hanno Glimmらは古典的なレンチウイルスのゲノムへの挿入部位の変化を指標として腫瘍クローンの変化を解析したところ、Intestine cancerでは移植によって挿入部位が減少しクローンが選別されたことから癌幹細胞の存在が強く示唆され、実際に癌幹細胞マーカーとして知られているCD133の有無で腫瘍形成能が大きくことなることやIGF2が腫瘍形成能に重要であることを見出しました。一方で同様の手法でPancreatic cancerのクローン変化を調べると挿入部位が減少せず、より多くのクローンが腫瘍形成に寄与出来ることが示されました。実際にPancreatic cancerではCD133の有無や血清存在下での培養によっても腫瘍形成能が変化せず、腫瘍細胞の多くが造腫瘍性を持っている可能性が示されました。
Poster sessionでは複数のloxpサイトを含むバーコード配列を持ったトランスジェニックマウスに時期特異的にCre活性を誘導し、任意のタイミングで任意の組織に100程度バリエーションのあるマーキングを可能とするマウスの報告が行われ、これまでの蛍光タンパク質を使ったconfetti mouseでは4種のマーキングであったところを大幅に増やす事に成功しており、今後バーコード技術によるクローン変化の解析が発展する事が予想されました。

また、組織幹細胞や癌幹細胞のマーカーとしてKeynoteで美しい3D映像を使ってHans Cleverが発表を行ったLGR5についての報告も多数見られました。Tuomas TammelaらはKras変異によって誘導される肺癌細胞のマトリゲル中での増殖がWntシグナルに強く依存することからLGR5の重要性について検討を行い、LGR5陽性の細胞が腫瘍原性を持つ可能性を示唆しました。またWntの成熟に重要なPorcupine陽性のNicheが腫瘍形成に重要である事を見出し、Porcupine阻害剤が癌幹細胞の維持を抑制することを示しました。一方で、オーガナイザーであるJ. Visvaderは乳腺上皮細胞におけるLGR5発現細胞の機能を解析したところ、確かにLGR5発現細胞には幹細胞性を持ち乳腺を再構築する能力を持ったものが存在する一方でLGR5陰性の細胞にも幹細胞性が存在することを示しており、腸上皮で報告されているような強い特異性は見られないことを報告しました。Marc LeushackeらはCorpus glandにおけるLGR5陽性細胞の役割を調べ、正常時にはLGR5陽性細胞は組織の恒常性維持にあまり寄与していないことを示しました。しかしながら組織が損傷を受けた際にはLGR5陽性細胞が幹細胞としてその修復を担うことが分かり、正常組織において正常時と病的な状態では重要な幹細胞画分が異なる可能性を示しました。

これらの分子的な知見が既に臨床応用に向けて利用されており、オーガナイザーであるAustin GurneyがWnt中和抗体の乳癌、膵癌、肺癌への効果や、Notch中和抗体の大腸癌、肺癌への効果について報告しました。Jonathan A. PachterはPI3K阻害剤が乳癌の幹細胞画分を抑制することや、FAK阻害剤が癌幹細胞を抑えると共に腫瘍中の制御性T細胞を減少させて抗腫瘍免疫を活性化させることで腫瘍を縮退させることを示しました。Feng CongらはTanklyrase阻害剤やPorcupine阻害剤が肺癌を抑制する事を示しました。興味深いことにこれら中和抗体や低分子化合物の開発によって遺伝子組み換えマウス等を用いずに簡便に特異的な分子阻害が可能となり、乳癌におけるRSPOの役割や腸上皮の恒常性維持における間質細胞のPorcupineの重要性などがPoster sessionで報告されており、分子生物学に基づく知見と化学が結びつくことで更に新しい知見が発見されるというサイクルが起こっているように感じ、私も今回Poster sessionで発表を行った乳腺上皮細胞および乳癌研究を通じてこのサイクルに貢献出来るよう邁進していきたいと思いました。

Breckenridgeはホテルの標高が2800m、山頂が3900mを超える高地でしたが、
幸い高山病にならずにミーティングに参加することが出来ました。

最後になりますが、このような素晴らしく貴重な機会を与えて下さいました「がん研究分野の特性等を踏まえた支援活動」の諸先生方、ならびに事務手続で大変お世話になりました総括支援活動班事務局の平野尚子様に心から感謝いたします。