概要・活動内容

国際交流委員会

Advances in Pediatric Cancer Research: From Mechanisms and Models to Treatment and Survivorship に参加して

公益財団法人 がん研究会 がん研究所 発がん研究部
田中 美和


私は、平成27 年度文部科学省科学研究費 新学術領域「がん研究分野の特性等を踏まえた支援活動」の国際交流海外派遣事業の助成を受け、2015年11月9日〜12日に米国フロリダ州フォートローダーデールで開催された「Advances in Pediatric Cancer Research: From Mechanisms and Models to Treatment and Survivorship」に参加しました。この会議は、米国癌学会(AACR)が主催するスペシャルカンファレンスのひとつで、チェアパーソンのDr. Scott A. Armstrong (Memorial Sloan Kettering Cancer Center), Dr. Charles G. Mullighan (St.Jude Children's Research Hospital), Dr. Kevin M. Shannon (University of California), Dr. Kimberly Stegmaier (Dana-Farber Cancer Institute) によってオーガナイズされました。

フォートローダーデールはフロリダ州南東部、マイアミの北50kmのところに位置する都市で、日本ではあまり馴染みがありませんが、年間1000万人以上の観光客が訪れるアメリカでは有名なビーチリゾート地です。フォートローダーデールの街中は運河が縦横に走り、運河沿いにはクルーザーを所有する大豪邸が立ち並んでいて「アメリカのヴェニス」と呼ばれているそうです。カンファレンスはビーチ沿いに並ぶホテルで行われました。

街中の運河

フォートローダーデールビーチ

4日間にわたったカンファレンスは、小児がんの生物学的な基礎研究や新規治療に向けた最新の知見を中心に計134演題の発表がありました (Neuroblastoma に関する演題は33, Leukemia 18, Ewing’ssarcoma 17, Osteosarcoma 10, Medulloblastoma 8, Rhabdomyosarcoma 7)。発がん機構の解明や新規抗がん剤の評価には、優れた動物モデルが不可欠ですが、カンファレンスではCRISPR/Cas9を応用したMLL 転座白血病モデルの樹立成功により、明らかになった発症のメカニズムが発表されました (Dr. Matthew Porteus, Stanford University) 。遺伝子改変技術を用いた Rhabdomyosarcomaモデルでは、原因遺伝子PAX3/7-FOXO1の標的経路 (Sonic Hedgehog) の活性化には母地細胞のエピゲノム状態が重要であることが示されました (Dr. Mark E. Hatley, St. Jude Children’s Research Hospital)。別のグループからは、PAX3/7-FOXO1融合タンパク質に結合するCHD4をmass spectrometry 解析で同定し、CHD4を標的とした低分子阻害剤の開発について報告がありました (Dr. Joana Marques, University Children’s Hospital, Switzerland)。

小児がんの発症は、高齢者のがんで知られているような環境やライフスタイルのリスクファクターに影響されることは少なく、主にゲノムやエピゲノムの異常が原因と考えられています。臨床検体を用いた大規模なゲノム・エピゲノム解析の演題数も多く、膨大なデータの中に驚くべき新たな発見がありました。融合遺伝子EWS-ETS を有するユーイング肉腫と、ユーイング類似肉腫(融合遺伝子CIC-DUX4, BCOR-CCNB3, EWS-NFATc, EWS-PATZ1)の患者299人の解析から、共通する遺伝子異常としてcohesin のサブユニットでgenetic instability に影響するSTAG2 のmutation(17%)と、細胞周期のブレーキとして働くCDKN2A deletion(12%)が見つかりました (Dr. Olivier Delattre, Institut Curie, France)。STAG2 の変異はダウン症患者の白血病でも報告があります。

新規抗がん剤の開発と応用に関する発表では、VAL-083 (アルキル化剤: for Medulloblastoma, Glioma)、ST1926 (DNA 合成阻害: Rhabdomyosarcoma)、ABT-199 (BCL2 阻害: Neuroblastoma, T-ALL)、Barasertib (AURKB 阻害: Neuroblastoma)、10058F4 (MYCN 阻害: Neuroblastoma)、STA-12-8666(HSP90 阻害: Ewing’s sarcoma, Rhabdomyosarcoma)、13-197 (NFkB/mTOR 阻害: Neuroblastoma)、PID1 (プロテオソーム阻害: Medulloblastoma, Glioma)、YK-4-279 (EWS-FLI1 とRHA helicaseA の結合阻害: Ewing’s sarcoma, Neuroblastoma)、SM-7 (機序不明: MLL-Leukemia)、GSK126 (EZH2 阻害:Rhabdomyosarcoma) 、MS-275 (ClassI HDAC 阻害: Ewing’s sarcoma) 、JQ1 (BRD4 阻害:Rhabdomyosarcoma, Osteosarcoma, T-ALL) 等の有用性が示され、分子標的治療薬とエピゲノム治療薬との併用も大いに期待されました。

2015年、米国で小児がんと診断された患者は11,630人で、このうち1,310人が亡くなりました。1960年代、米国の小児がん患者の5 年生存率は30~40%以下でしたが、2013年には80%にまで上昇し、特にHodgkin lymphoma やWilms tumor, Acute lymphoblastic leukemia は90%に達するようになりました。現在米国には42万人を超えるサバイバーがいます。この背景には、外科手術と放射線治療の改良、化学療法の進歩、患者をサポートする環境の整備が功を奏していることは言うまでもありません。しかしながら、小児がん5年生存者の30年後を追跡すると(患者は30~40歳代になっている)、既におよそ20%の人が亡くなっています。その主な原因として、二次がんの発生と心疾患が挙げられますが、元小児がん患者の二次がんの発生は健常者の15 倍、心疾患のリスクは7倍に跳ね上がると言われています。これらをくぐり抜けたとしても、長期サバイバーにはいつもQOLを脅かす様々なリスクがあります。カンファレンスの最終日には、今後の方向性として、小児がん治療後の晩発影響に対する遺伝的感受性のスクリーニングや、二次がんを予防するための早期発見法の改良と、個別のリスク予測の拡大が求められました (Dr. Gregory T. Armstrong, St. Jude Children’s Research Hospital and Dr. Smita Bhatia, University of Alabama at Birmingham)。

ポスターの前で

最後に、私は胞巣状軟部肉腫の動物モデルの開発と、モデルを使った血行性肺転移機構の解明に取り組んでいます。胞巣状軟部肉腫は若年発症で転移能が高く、いまだ有効な治療薬がありません。今回ポスターとショートプレゼンテーションで発表する機会を得て、同じ領域の研究者とディスカッションをすることで多くの質問や助言をいただきました。私の研究テーマは稀少がんのひとつである骨軟部肉腫ですが、世界中には肉腫研究の仲間が大勢いる事が分かり、嬉しい気持ちになると同時に、自分ももっと頑張らねばと身の引き締まる思いがしました。
このたびは国際交流海外派遣のひとりに選んでいただき、国際交流委員会委員長の石川冬木先生はじめ委員の先生方と、事務局の平野尚子様に心より御礼申し上げます。