概要・活動内容

国際交流委員会

Keystone Symposia “New Frontiers in Understanding Tumor Metabolism” 参加報告

金沢大学 がん進展制御研究所 腫瘍分子生物学研究分野
村中 勇人


はじめに

この度、文部科学省新学術領域研究「がん支援」平成27年度国際交流海外派遣支援事業の御支援により、Keystone Symposia “New Frontiers in Understanding Tumor Metabolism” (平成28年2月21日〜2月25日;カナダ・アルバータ州・バンフ) に参加させていただいた。この会議は、Chi Van Dang、Katharine Yen、Navdeep S. Chandelによってオーガナイズされ、世界中からがん代謝領域の研究者が多数集まり、最新の研究成果についての発表・議論が行われた。本学会は、Keystone Symposia “Immunometabolism in Immune Function and Inflammatory Disease”との合同開催であったことから、学会会場にはがんと免疫の両方の分野の研究者が参加していたが、どちらの分野でも最近代謝研究が盛んに行われているようで、分野を超えた活発な交流が行われた。
以下に、私の視点から今回の会議で興味深かった話題をいくつか取り上げて紹介したい。

学会会場となったホテル。写真は滞在していた部屋の窓から。

まず、学会初日に、Lewis C. CantleyらによるJoint Sessionがあった。Lewis C. Cantleyの講演では、PI3KのRac、F-Actinを介したAkt非依存的な解糖系の制御機構と、既存の抗がん剤が効きにくい大腸癌に対するVitamin Cを用いた治療法の有効性とその分子機構についての研究が紹介された。後半の話は、まず、変異型KRASやBRAFを有する大腸がんではグルコーストランスポーターGLUT1が過剰発現しているため、高濃度のVitamin Cをがん細胞に添加すると、その過酸化物dehydroascorbate (DHA) がGLUT1を介して積極的に取り込まれること、そして、DHAが細胞内でVitamin Cに還元される際にグルタチオンが減少し、ROSが増加、その結果GAPDHの活性が阻害されて解糖系が抑制され、細胞死が引き起こされるという内容であった。がん細胞の特徴的な代謝をうまく利用した副作用の少ない治療法となる可能性を感じさせるものであり、今後臨床への展開が期待される。

Peter F. Carmelietの発表は、血管内皮細胞の代謝ががんの新規治療標的となり得ることを示したという点で、非常に興味深かった。VEGFシグナルの阻害だけでは十分な治療効果を得られないがんに対しても、同時に血管内非細胞の代謝(解糖系への依存性)をブロックすることで、より大きな効果が期待できるという。また、これまではがんの血管新生を抑制した方がよいという考えが一般的であったが、がんの血管が構造的・機能的に異常であるために薬剤が届きにくいという点に着目し、これを例えば代謝の側面から正常に近づけることによってがん細胞により薬剤を届きやすくすれば、治療効果の向上につながるという話もあった。がん細胞以外の周りの細胞の代謝の重要性について気づかされる内容の講演であった。

私は、がんの脂質合成・代謝異常について研究していることから、特に脂質に関する発表に注目して発表を聞いていたが、去年の学会に参加した人の話によると、前回と比べて今回は格段に脂質関係の演題が増加したそうである。確かに、口頭発表やポスター発表では、SREBP、ACLY、ACC、FASNに関するものが10数題あり、それらの研究者達と互いの研究について有意義な情報交換をすることができた。

私自身は、がん抑制遺伝子Rbの脂肪酸合成・代謝における役割について研究しており、今回は、“Cooperative roles of Rb and SREBP-1 in controlling fatty acid metabolism and carcinogenesis”という演題でポスター発表を行った。また、私の指導教官の高橋智聡教授が、Rbによる解糖系の制御とその役割についてポスター発表された。残念ながら、今回Rbの代謝機能に関する発表はこの2つだけであったが、今後、私たちの研究ががん代謝研究の領域において広く認知されるように研究を続けていきたいと思った。

今回の学会で、全体的に感じたことは、代謝物の定量データだけでなく、安定炭素同位体(13C)を用いた代謝フラックス解析データが非常に多かったことである。その技術が現在のがん代謝研究のスタンダードであるということを認識し、今後の自分たちの研究においても積極的に使用していくことの必要性を感じた。また、がん細胞では一般的にWarburg効果(酸素存在下においても、ミトコンドリアの酸化的リン酸化よりも解糖系を亢進させることによりATPを産生する現象)が起きていると言われているが、実際にはそうでない場合も存在し、しかも、がん組織中のがん細胞の代謝は不均一であることが示され、がん代謝が予想以上に複雑であることを理解した。David M. Sabatiniの講演にあったmTORによるアミノ酸のセンシング機構のように、細胞がいかにして周りの栄養素の増減を感知し、細胞内シグナル伝達を介して代謝を調節し周りの栄養環境に適応するのかについての研究も、興味深かった。さらに、今回は、薬剤処理したときの代謝変化を解析した発表も多く、薬剤の作用機序を理解する上で代謝解析がいまや欠くことのできないものになったと感じた。そして、多くのがんの分野以外の人のがん代謝研究への参入が、この研究領域に新しい視点をもたらし、より一層の発展につながることを予感させる会議であった。

学会が開催されたバンフは、ロッキー山脈の中に位置する小さな町で、バンフ国立公園内にあり、カナディアン・ロッキー観光の中心地である。今回が初めての訪問であったが、天候にも恵まれ、カナディアン・ロッキーの雄大な眺めが大変印象的であった。防寒対策のためたくさん衣類を持って行ったが、意外に暖かく雪も少なくて、防寒具をほとんど着ないまま持ち帰って来ることとなった。学会開催期間中は、学会会場のThe Fairmont Banff Springsに滞在したが、ヨーロッパの城館のようなホテルで、窓からの眺望も素晴らしく、贅沢なひとときを過ごすことができた。また、午後に長い自由時間が設けられている日があり、学会で初めて知り合った方々と一緒にランチを食べながら話をしたり、近くの山にゴンドラで上って頂上からの景色を眺めたり、バンフの町でショッピングや散策をしたりと、つかの間の楽しい時間であった。休み時間にスキーに行ったり、近くの湖にハイキングに行くツアーに参加したりしている研究者もいたようで、これも多忙な研究生活を送る研究者にとってのKeystone Symposiaの楽しみのひとつと言えるだろう。また、最終日の夜の夕食後には、ダンスがあり、日本の学会とは違った独特の雰囲気を体験した。

カナディアン・ロッキーの雄大な眺め。写真はゴンドラで上ったMt. Norquayの展望台から。

おわりに

最後になりますが、このような大変貴重な機会を与えてくださいました文部科学省新学術領域研究「がん支援」総括支援活動班の中村卓郎先生、国際交流委員会の諸先生方、ならびに事務手続き等で大変お世話になりました総括支援活動班事務局の平野尚子様、藤田豊子様に心より御礼申し上げます。
今後も、このようながん若手研究者に対する支援活動が継続されることを希望いたします。