概要・活動内容

国際交流委員会

10th AACR-JCA Joint Conferenceへの参加報告

千葉県がんセンター研究所・がん治療開発グループ・研究員
高取 敦志


はじめに

平成27年度新学術領域研究「がん支援」国際交流委員会研究者海外派遣事業からご助成いただき、平成28年2月16日から21日にかけてアメリカ合衆国ハワイ州マウイ島で開催された、日米癌合同会議10th AACR-JCA Joint Conferenceに参加させて頂きました。私にとって今回が日米癌合同会議の初めての参加となりました。

10th AACR-JCA Joint Conference

日本癌学会(JCA)および米国癌学会(AACR)の主催で開催される日米癌合同会議は今回が記念すべき第10回の開催となりました。“Breakthroughs in Cancer Research: From Biology to Therapeutics”と題された今回の合同会議は世話人のがん研究所の野田哲生先生およびUCSFのFrank McCormick先生のもと開催され、38演題の口頭発表および300を優に超えるポスター発表が行われました。個人的には難治性がんにおいて治療抵抗性のメカニズムについて基礎的研究で明らかにした上で次にとるべき治療戦略を明確に示す演題が多かった印象があります。Dana-Farber Cancer InstituteのAlan D. D’Andrea先生は卵巣がん細胞におけるDNA二重鎖切断のDNA修復メカニズムはalternative end joiningに依存していることを指摘し、その責任ポリメラーゼであるPolΘが新たな治療標的となることを報告していました。
Netherlands Cancer InstituteのRene Bernards先生はBRAF阻害剤耐性メラノーマ細胞におけるMAPKシグナル経路の高活性化がoncogene-induced senescenceに重要であることを述べた上で、ROSの産生を介したMAPK活性化を誘導するHDAC阻害剤とBRAF阻害剤によるSequential dosingの臨床試験について紹介していました。また、発がんモデル開発に関してもその技術的進歩が目覚ましく、やはり治療法開発研究を行う上でcancer biologyを深く理解するための基礎的研究の重要性を再確認させられる思いでありました。

会場の中と外の様子。目の前はビーチです。

我々は今回、難治性でアンメットニーズが高い悪性腫瘍に対する新規治療法への応用を目指して開発を行っているピロール・イミダゾール・ポリアミド化合物(PIP-seco-CBI)のうち、特に大腸がんのKRAS遺伝子変異を標的とした化合物について発表させていただきました。この化合物は微生物が持つ抗生物質に由来し、構成要素であるピロール基とイミダゾール基の組み合わせによりDNA塩基配列を認識し、アルキル化剤であるCBIにより配列特異的にがん遺伝子のDNAをアルキル化することができるという特徴があります。KRAS遺伝子変異を標的として合成された化合物であるKR12はKRAS変異陽性大腸がん細胞においてKRAS遺伝子の発現を抑制し、細胞死を強く誘導します。そしてマウスに毒性を示さない極めて低い濃度における投与により、移植腫瘍に対して抗腫瘍効果を示しますが、今回はこの化合物の作用機序について発表させていただきました。幸いにも最終日のBanquet前にMcCormick先生とお話しさせていただく機会に恵まれ、変異KRASに対する標的治療法開発の重要性について気持ちを新たにすることができました。
今後、早期の臨床試験を実現するべく研究開発を進めていきたいと思います。

長めの昼休み中に、ランニング途中でみつけた閉業中のSUGAR CANE TRAIN MAUIのKaanapali駅。
観光用鉄道だそうですが、再開する日は来るのか・・・。

おわりに

今回の会場のハイアット・リージェンシー・マウイはハワイの中で最も人気の高いビーチの一つであるカアナパリビーチにあり、周囲はリゾートと呼ぶにふさわしいロケーションでした。しかし、5日間にわたって各セッションの口頭発表がいずれもインパクトの高い発表ばかりで、ビーチなんかに行くのはもったいないと思える非常に充実したプログラムでした。ポスターセッションでも同様で、ディスカッションが盛んに行われている発表が多く、実際私も多くの参加者の方々に来ていただいて多岐にわたる質問やコメントを受けることができ、セッションの2時間があっという間に終わってしまい、他のポスターを見に行くことができないほどでした。本合同会議は他の学会とは異なり、参加者同士の距離が非常に近く感じられ、議論も活発で、研究交流の機会を得るには最適の場と思われます。
がん研究の最新知見に触れられ、各分野でフロントランナーとなっているPIの先生方とディスカッションできる機会にも恵まれることから、特に若手の研究者・学生の皆様に次回の本合同会議への参加を強く奨めます。

最後になりましたが、この度このような貴重な機会を頂きました文部科学省科学研究費 新学術領域研究「がん研究分野の特性等を踏まえた支援活動」国際交流委員会の石川冬木先生はじめ諸先生方、ならびに派遣前後にわたって事務手続き等でお世話になりました同事務局の平野様をはじめ関係者の皆様方に感謝いたします。ありがとうございました。