概要・活動内容

国際交流委員会

ASCBについて

九州大学理学研究院生物科学部門代謝生理学研究室
池ノ内 順一


がん研究者旅費のご支援を受けて、12月12日(土曜日)から16日(水曜日)にかけて、San Diegoのコンベンションセンターで開催されたアメリカ細胞生物学会に参加し、14日には自身の研究内容に関するポスター発表を行いました。アメリカ細胞生物学会は、参加者数がおおよそ10000人という大きな規模の学会です。発表されている内容は、基礎的な細胞生物学の研究に関するものに加えて、超解像度顕微鏡やCRISPR法などの進展の著しい新しい技術に関する発表も多く、大変有意義な参加になりました。複数のシンポジウムが同時に進行する構成になっており、私自身は、細胞膜、細胞接着、細胞骨格、細胞運動など自分の研究テーマに関連したシンポジウムに参加いたしました。

今回の発表について

私の研究室からは、私と大学院生の2名で参加いたしました。私自身の発表は、癌の浸潤過程などにみられる上皮間葉転換現象に伴って、細胞膜脂質の組成がどのように変化するか、またそのような変化がどのような生理学的な意義があるか、という内容でした。論文になっていない未完成なデータを主体とした発表でしたが、上皮間葉転換の研究者や脂質生化学分野の研究者、生物物理学の研究者などと意見交換ができ、様々な分野の人が参加している学会ならではの幅広い視点での議論ができて、今後の研究の方向性に関して多くの示唆を得ることができました。

一緒に同行した大学院生の研究発表は、上皮細胞の細胞接着構造の一つ、タイトジャンクションの研究に関する内容でした。タイトジャンクションは、上皮細胞のバリア機能を担う細胞接着装置です。タイトジャンクションを構成する接着分子としてクローディンが同定されました。体の各組織に発現するクローディンのそれぞれのノックアウトマウスはタイトジャンクションの喪失によって上皮バリアの破綻による表現型を示すことが知られています。また、浸潤癌の形成過程では、クローディンの発現が減少し、細胞接着が破綻することが知られています。
一方で、クローディンがどのような制御を受けて細胞膜構造としてのタイトジャンクションを形成するかについてはわかっていません。発現ベクター等によってクローディンを過剰に上皮細胞に発現させても、タイトジャンクションの形成が拡大したり、上皮細胞のバリア機能が亢進することはありません。従って、バリア機能を担う細胞膜構造としてのタイトジャンクションの形成はクローディンの発現量の調節以外の方法で制御されていることが示唆されます。

私たちの研究室では、上皮細胞のバリア機能を調節するメカニズムを解明する目的で、新学術領域・がん支援・化学療法基盤支援活動班よりご提供いただいた約400種類の化合物ライブラリーの中から、タイトジャンクションの細胞膜領域を拡大させる薬剤の探索を行いました(Shiomi Shigetomi et al. Sci. Rep.2015)。その結果、Ca2+/カルモジュリン依存性プロテインキナーゼII(以下、CaMKII)の阻害剤を培養上皮細胞に作用させるとタイトジャンクションがラテラル膜領域にまで拡大することを見出しました。またCaMKII阻害の結果、クローディン−1の191番目のスレオニンのリン酸化が亢進し、クローディン−1の189番目のリジンがユビキチン化されなくなることを見出しました。したがって、タイトジャンクションの形成量をクローディンの翻訳後修飾によって制御する分子機構が存在する可能性が示唆されました。本内容は、学会の数か月前に論文として発表していたものですが、タイトジャンクションの研究者が多数ポスターに立ち寄っていただき、大変実りのある議論ができました。
発表した大学院生にとっても刺激に満ちた良い経験になったと思います。

最後に

今回、このような貴重な発表の機会を与えてくださいました、石川冬木先生はじめ国際交流委員会の先生方に厚く御礼申し上げます。