概要・活動内容

国際交流委員会

2015 AACR-NCI-EORTC Molecular Targets and Cancer Therapeuticsに参加して

(公財)がん研究会 がん化学療法センター 基礎研究部 研究生
小倉 隼人


平成27年度新学術領域研究「がん研究分野の特性等を踏まえた支援活動」国際交流海外派遣の助成をいただき、2015年11月5〜9日にアメリカ合衆国ボストンで開催された2015 AACR-NCI-EORTC Molecular Targets and Cancer Therapeuticsに参加する機会を頂きました。本国際学会は、分子標的療法における新規治療標的や、治療薬、分子標的療法耐性などの最新知見について発表・討議される学会でした。以下、簡潔に主要演題について記します。

Educational Session 1: Immunotherapy 101

がん免疫療法における様々なトピックスを最新の知見を交えつつ概説するSessionでした。Jolanda de Vries博士は樹状細胞ワクチン免疫療法について議論し、樹状細胞ワクチンは変異遺伝子由来の抗原(neo-antigen)に対して効果を示すことを報告しました。Stephen Gottschalk博士は、TIL (Tumor Infiltrating Lymphocyte)について述べ、患者由来のT細胞の遺伝子改変による治療効果について議論しました。この治療法によりメラノーマに対して一定の効果があるとする一方で、本治療の毒性や、腫瘍への選択性を課題点として挙げました。また、キメラ抗原受容体(CARs)療法についても述べ、低分子化合物や免疫チェックポイント阻害薬との併用における有用性について主張しました。Mary L. Disis博士は、がん免疫チェックポイント療法について議論し、本治療法の有効性を唱える一方で、免疫システム内の様々な要素が複雑に相互作用しているために、本治療法ががんに対してcriticalに効果を示すポイント(ホームラン)を見つけることが難しいと主張しており、本治療法における今後の課題を提起するような口演でした。

Plenary Session 1: Cellular immunotherapy

がん免疫療法に焦点を置いたSessionでした。Alexander M. M. Eggermont博士は臨床試験の結果を紹介しつつ、免疫チェックポイント阻害薬の効果や、将来的な本治療法の展望などを述べました。Crystal L. Mackall博士はCARによるがん免疫治療について述べましたが、本治療法においても、immune rejectionやバリアントによる抗原の喪失などにより治療抵抗性を示すという、従来の分子標的治療にも共通するような耐性についても述べました。

Plenary Session 2: Immunotherapy Checkpoints

免疫チェックポイント阻害療法に焦点を置いたSessionでした。Paolo A. Ascierto博士は、現在まで臨床試験実施済みの各免疫チェックポイント阻害薬のOverall Survivalや治療効果を紹介し、今後の治療戦略について議論しました。
Edward B. Garon博士は肺がん、特にNSCLCにおける薬剤治療の変遷を紹介しつつ、免疫チェックポイント阻害薬の適用について議論しました。その際、有効なバイオマーカーなども提案していました。Christian Blank博士は免疫チェックポイント阻害薬と分子標的治療薬など、他の治療薬との併用について議論しました。

Plenary Session 3: Update on Targeting RAS and Cancer

Ras遺伝子に焦点を置いたSessionでした。Mariano Barbacid博士は、KRAS陽性がんに対する実験モデルを構築し、KRASドライバーがんの解析を実施した研究について述べました。Kevan M. Shokat博士はKRAS変異がんを解析するにあたり、化学的な修飾基をつけるモデル系について述べました。David A. Tuveson博士は、KRAS依存的なすい臓がんについて議論しました。その中で、オルガノイドモデルを開発し、PDA (Pancreatic ductal adenocarcinoma)モデルのオルガノイドでは、NRF2に依存した生存機構を発見したことについて述べました。Frank McCormick博士は、KRAS遺伝子とがん幹細胞性について述べ、KRAS陽性がんのstemnessの上昇に伴い、薬剤耐性の上昇、LIFの発現が上昇することについて議論しました。

Plenary Session 4: Advances in Targeted Therapy

がん分子標的療法に焦点を置いたSessionでした。José Baselga博士は、乳がんにおけるドライバー遺伝子変異について議論しました。その中でエストロゲン受容体(ER)に着目し、ER(+)の症例において、どのようなパスウェイが働き、また、どのような分子標的療法によって耐性獲得乳がんを克服できるかといったような議論がなされました。Jeffrey A. Engelman博士は分子標的治療の耐性機構について、Drug Tolerant Evolutionという新たなメカニズムを提唱しました。これは長期間の薬剤処置に耐える細胞がドミナントになり、薬剤耐性がんになるという新しいメカニズムであり、今後より研究が進んでいくことが期待されるテーマであると感じました。Josep Tabernero博士は、大腸がんに存在する様々なドライバー遺伝子について述べ、それぞれの治療戦略について概説しつつ、最新の知見を紹介しました。

Plenary Session 5: Advances in Targeted DNA Repair

DNA修復やPARP阻害薬についてのSessionでした。Jean-Charles Soria博士は、白金製剤であるシスプラチンの耐性獲得のメカニズムとして、ERCCのアイソフォームの変化が原因であるとし、シスプラチン耐性の新しいバイオマーカーになると述べました。Alan D. D'Andrea博士は、DNA double strand breakの原因として、PARP/POLQ経路が原因であることを述べ、BRCA1/2の変異を持つがんにおいて、この経路が新規ターゲットとして注目できると主張しました。Mark J. O'Connor博士は、複製ストレス応答に関わるATRと、CDK1を制御するWEE1という2つのキナーゼに着目し、これらの阻害薬がin vitroおよびin vivoにおいてDNAダメージを抑制することを示しました。

Plenary Session 6: Resistance to Targeted Therapy

がん分子標的療法の耐性機構について議論するSessionでした。Levi A. Garraway博士は、統計的に報告頻度の低い遺伝子変異(Long Tail)について述べ、そのうちの一つであるPRMT5の体細胞変異について詳述しました。John C. Byrd博士は、白血病の分子標的治療における薬剤耐性機構について述べ、PI3KやMAPK, NF-κA活性化を誘導するBruton’s Tyrosine Kinase (BTK) に着目した研究成果を報告しました。Joan S. Brugge博士は、Bcl-2ファミリーをターゲットとした治療に着目し、Bcl-2やBcl-XLを阻害することでPI3K-Akt経路の薬剤感受性が高くなるという研究成果を報告しました。

Plenary Session 7: Tumor Microenvironment

がん微小環境について議論するSessionでした。Marina Y. Konopleva博士は、白血病におけるがん微小環境について述べ、hypoxic nicheにおけるHIF1の安定性についての報告を行いました。Eric Deutsch博士は、Hypoxiaが放射線治療における抵抗性に寄与する大きな要因であることを述べ、HIF-1に注目した研究成果を報告しました。Jon C. Aster博士は、Notchシグナルについて述べ、このシグナル経路を標的としたがん治療法について紹介しました。Christophe Massard Jr.博士は、臨床におけるNotchシグナル阻害薬の効果について述べました。

Plenary Session 8: The In Vitro Patient

がん治療における個別化医療に焦点を置いたSessionでした。Emile E. Voest博士は個別化医療におけるオルガノイド培養モデルの重要性について述べ、その高い有用性について報告しました。James H. Doroshow博士は、米国国立がん研究所(NCI)での患者由来ゼノグラフト(PDX)モデルについて述べました。Paul Haluska博士は、現在樹立されているモデルの少ない卵巣がんのPDXモデルを多数樹立したことを報告し、その高い有用性について議論しました。Mathew Garnett博士は、ハイスループットな薬剤スクリーニング系を構築し、その汎用性の高さについて議論しました。

この日は11月のボストンとは思えない温かさ。ジャケットいらずでした。

Plenary Session 8: The In Vitro Patient

総括として、がん免疫療法が非常にホットなトピックスであることを強く感じました。Paolo A. Ascierto博士の口演の中で、「免疫チェックポイント阻害薬は抗がん剤、分子標的治療薬に続く第三の波、“Tsunami”である。」と言っていましたが、その言葉が決して大げさでないことをこの学会中に強く感じました。がん免疫治療が特定のがんにおいて顕著な効果をしめすという事例が数多く紹介され、さらに他の治療法との併用の可能性を示唆している研究もあり、がん免疫分野の有効性、汎用性の高さに驚かされました。しかしその一方で、がん分子標的療法において観察される耐性獲得のような事例も紹介されました。私はがん分子標的療法における耐性獲得メカニズムの解明をテーマに研究を行っているため、この事実に驚き、強い興味を持つとともに、この困難な課題に取り組むことが今後のがん治療において非常に重要な意義を持つと感じました。

Poster Sessionは本学会の2〜4日目の計3日間行われました。国際学会への参加は今回が初めてであったため、海外の研究者へポスターの内容に関して質問する貴重な経験となりました。しかしながら英語での十分なディスカッションができたとは言い難く、英語でのコミュニケーション能力の向上が自分の課題であることを痛感しました。

国際交流海外派遣という素晴らしい機会にめぐまれ、生まれて初めての海外渡航、そして国際学会への参加という貴重な体験をさせていただきました。各Sessionでの講演はいずれも最先端の研究成果であり、大変勉強になったと同時に、もっと視野を広げて情報を収集し、積極的に学んでいかなければならないという課題も見出すことができました。今回は学会出席のみにとどまってしまいましたが、来年は自分の研究成果を引っ提げて国際学会に参加し、世界のがん研究者とディスカッションし、自分の研究や研究者としての自分の能力をより磨き上げたいという願望を強く抱くようになりました。

会場内の様子。人数の多さと大画面のディスプレイに圧倒されました。

最後になりますが、今回貴重な機会を与えて頂きました文部科学省科学研究費新学術領域研究「がん研究分野の特性等を踏まえた支援活動」の先生方、ならびに事務手続きでお世話頂きました同事務局の平野様に心から感謝申し上げます。