概要・活動内容

国際交流委員会

Tenth AACR-JCA Joint Conference on Breakthroughs in Cancer Research: From Biology to Therapeuticsに参加して

岩手医科大学 薬学部 微生物薬品創薬学講座 助教
奥 裕介


「がん研究分野の特性等を踏まえた支援活動」国際交流海外派遣事業からご支援をいただき、2016年2月16日から21日までハワイ・マウイ島で行われたTenth AACR-JCA Joint Conference on Breakthroughs in Cancer Research: From Biology to Therapeuticsに参加させて頂いた。
3年に1度開催されている本会は、AACRと日本癌学会の共同で開催されており、今回は10th anniversaryであった。今年は暖冬とはいえ、朝晩は-5度にまで気温の下がる真冬の盛岡とは打って変わって、マウイ島は夏のような太陽が照りつけていた。午前と午後のセッションの間には比較的長めの休憩があり、会場のそばのビーチを歩くだけでも清々しい気分になることができた。

初日は、免疫チェックポイント療法の重鎮であるProf. Suzzane Topalianと、がん治療における標的の候補分子の同定と治療薬の開発に精力的に取り組んでいる中村祐輔先生のKeynote lectureから始まった。多くのセッションで近年注目の免疫チェックポイントに主眼をおいた研究や、がん分子標的治療と免疫チェックポイント療法との併用など、免疫チェックポイント療法の幅広い応用を期待させる発表が多く見られた。いずれのセッションも素晴らしい発表ばかりであったが、筆者が特に興味を持った発表についてレポートさせて頂く。

Netherlands Cancer InstituteのProf. Rene Bernardsは、メラノーマのvemurafenib耐性機構が持つ「弱点」を利用したsequential therapyを提唱していた。vemurafenib耐性メラノーマ細胞ではEGFシグナルが過剰に活性化し、oncogene-induced senescenceが生じていること、vorinostatをはじめとするHDAC阻害剤はROSを産生することでvemurafenib耐性細胞にさらに強いsenescenceを誘導して、vemurafenib耐性細胞の増殖を抑制することが報告された。HDAC阻害剤はvemurafenib耐性細胞に対して増殖抑制効果を示すばかりでなく、リンパ球のがんへの浸潤を誘導することから、BRAF阻害剤による治療・HDAC阻害剤による治療というsequential therapy、さらにこれに免疫チェックポイント療法を組み合わせることで、これまでになかった高い治療効果が得られる可能性について言及していた。

Vanderbilt-Ingram Cancer CenterのProf. Carlos Arteagaは、ER陽性の内分泌療法耐性の乳がんの治療法について発表を行った。PI3Kの活性化型変異に着目し、内分泌療法と、PI3K阻害剤の併用療法の基礎研究・臨床研究について紹介していた。PI3K阻害剤と、ERの阻害によって高い抗腫瘍効果が得られること、ER依存性の転写活性化能が相乗的に低下すること、この転写活性化能の阻害には、PI3Kによって誘導されるFOXO3aが重要である可能性が提唱されていた。閉経後乳癌患者を対象として、letrozoleやfluvestrantと、PI3K阻害剤との併用療法の臨床試験の結果が紹介され、combination therapyの効果が示された。この臨床研究のサブグループ解析から、循環血中に見られる腫瘍由来DNA (circulating tumor DNA)にPI3Kの変異が検出される患者の予後を特によく改善することが示されていた。Circulating tumor DNAのKRAS遺伝子の変異の検出についてはFrancis Crick InstituteのProf. Julian Downwardが最新の知見を報告していた。技術の発展が目覚ましい分野であると感じると同時に、診断などへの臨床応用が現実味を帯びてきていることを感じた。

筆者は、転写活性化因子YAP/TAZの阻害剤について発表を行った。YAP/TAZはTEADと核内で結合し、細胞増殖や細胞死耐性に関わる遺伝子発現を活性化して、がんの発生や悪性化に関与する。筆者は、YAP/TAZの核移行を阻害する化合物としてdasatinib, fluvastatin, pazopanibを同定したことを報告した。また、YAP/TAZが細胞周期キナーゼ阻害薬に対する耐性を付与することを報告した。キナーゼ阻害薬を用いた治療では、高頻度に耐性が生じる。また、分子標的薬に特徴的な副作用の存在も知られている。これらの問題を克服する方法の一つとして、combination therapyが考えられる。YAP/TAZによる細胞周期キナーゼ阻害薬の耐性の付与は、YAP/TAZの阻害と細胞周期キナーゼ阻害薬の併用により、高い治療効果を得られる可能性を示している。今後は、細胞周期キナーゼ阻害薬とYAP/TAZの阻害剤との併用で、抗腫瘍効果の増強が見られるか、YAP/TAZによる細胞周期キナーゼ阻害剤耐性機構について検討していきたい。

ポスター会場

会場近くのビーチ

最後になりましたが、このような素晴らしい学会に参加する機会を与えてくださいました「がん研究分野の特性等を踏まえた支援活動」国際交流海外派遣事業の石川冬木先生をはじめとする諸先生方、事務手続きでお世話になりました平野尚子様をはじめとする事務局の方々に、心より感謝申し上げます。