概要・活動内容

国際交流委員会

57th American Society of Hematology (ASH) Annual Meeting & Expositionに参加して

東京大学大学院 新領域創成科学研究科 メディカル情報生命専攻 特任助教
山岸 誠


はじめに

新学術領域「がん支援」平成27年度国際交流海外派遣より助成を受け、平成27年12月5日から8日の4日間、フロリダ州オーランドのOrange County Convention Centerで開催された57th American Society of Hematology Annual Meeting & Exposition (ASH)に参加して、2つの演題を発表して参りました。ASHは毎年2万人を超える臨床家、研究者、企業人が参加し、1000題以上の口頭発表に加え、3000題以上のポスター発表が行われる、血液関連領域において世界最大の学術集会です。

ASHについて

毎年アメリカの都市部で開催される本学術集会は、今年度はフロリダ州のリゾート地にある非常に大きな会議場で行われました。私は初めてASHに参加しましたが、会の規模、華やかなレセプション、著名な先生方による革新的なシンポジウム、盛大な企業ブース、そして何より参加者の熱のこもったディスカッション、すべてに圧倒された4日間でした。ASHで発表される研究成果は、最新の知見として多分野から大変重要視されており、今回も論文発表される以前の臨床試験の成果や、基礎研究の新しいコンセプトが多数発表されました。論文や書籍からは読み取ることが困難な、しかし実は重要な事象がたくさんあり、それらに直接触れることができたことが私にとって大きな魅力でした。
また滅多に拝見することのできない著名な学者や臨床家の先生方、さらには医薬品メーカーの開発担当者の方々と直接ディスカッションし、また公私にわたりコミュニケーションを得ることは、ASHのような大きな学術会議に参加する最大のメリットであると思われます。

今回の発表について

成人T細胞白血病(ATL)は日本人に100万人以上の感染者(キャリア)がいるヒトT細胞性白血病ウイルス1型(HTLV-1)によって引き起こされる重篤な白血病で、発症予防法や有効な治療法は確立していません。私たち東京大学大学院新領域創成科学研究科の研究グループは、これまでに全国的なHTLV-1感染者コホート共同研究班(JSPFAD)を組織し、次いでATL細胞およびキャリア中のHTLV-1感染細胞の遺伝子発現、ゲノムコピーナンバー、microRNA発現の包括的解析を実施し、ATL細胞の分子レベルの特徴を明らかにしてきました(Cancer Cell, 2012)。

本学会では、ATL細胞の悪性化を引き起こす特徴的な遺伝子発現異常の背景にあるEZH1/2依存的な大規模なエピゲノム異常について口頭で発表しました (Blood, 2016)。ATL細胞はEZH1/2の発現およびゲノム上の分布に異常を呈し、その結果約半数の遺伝子座においてメチル化ヒストンが異常に蓄積していました。興味深いことに、このエピゲノム異常はHTLV-1感染が引き金になっていることから、エピゲノム異常がHTLV-1による腫瘍化過程の重大なステップであると考えられます。

さらに私たちは第一三共株式会社との共同研究によりEZH1/2を強力に阻害する新規化合物の開発研究の末、この新規化合物がATL細胞に対して有効であることを明らかにしました。EZH1/2阻害剤はATL細胞に蓄積する異常なメチル化ヒストンを消去し、非常に高感度かつ特異的にATL及び感染細胞を死滅させることを見出しました。これらの成果はATLに対する新規分子標的治療のコンセプトを提案すると同時に、ATL発症予防という新たな可能性を示しました。ATLという白血病を発見し、その原因ウイルスとして、人で初めてのレトロウイルスを発見するなど、日本人研究者はこの領域での研究の進歩に多大な貢献をしてきました。世界的に見て、いわゆる先進国の中で、日本のみに国民の1%にも上る多数のHTLV-1感染者が存在し、毎年千人以上がATLで死亡しています。今回の研究成果は、我が国の多くの患者さんと研究者の長期間の協力に支えられた解析であり、世界中で我が国のみで実施可能な研究です。臨床医学と基礎研究の両方に、国際的に大きな貢献となる重要な研究成果であると考えています。

口頭発表の直後、悪性リンパ腫研究で世界的に著名なLouis M. Staudt博士、Thomas A. Waldmann博士から基礎及び臨床応用についてのご質問をいただき、今後の研究に活かせる貴重なアイデアに結びつきました。このような機会は普段の研究生活からは到底得ることができず、国際交流の重要さを改めて感じました。

本学会では、B細胞リンパ腫におけるmicroRNA、シグナル伝達経路、エピジェネティクスが形成する遺伝子調節ネットワークに関する研究についても、別の演題で発表しました。多くの方々から興味を持っていただき、激しい討論の中で本研究の価値と発展性を新たに見いだすことができました。特に他分野の先生方から思いもよらぬアドバイスと共同研究の可能性をご提示いただき、参加者が一堂に会して議論するポスターセッションの重要性を再認識しました。

写真はASHが行われた会場の近くです。
温暖な気候とリゾート地ならでは空間的な余裕は、ハードなスケジュールを快適にしてくれました。

おわりに

ASH meetingに参加させていただき、世界の血液研究のレベルの高さを痛感し、多くの課題を日本に持ち帰ることができたことが最大の収穫でした。また普段あまり馴染みのない領域について学び、今後の研究に生かすことができるのもASHのような大きな学会に参加する意義であると思います。このような貴重な機会を与えてくださった文部科学省新学術領域「がん支援」国際交流委員会の諸先生方、事務手続きで大変お世話になりました総括支援活動班の平野様に感謝申し上げます。また平素よりご指導頂き、私の研究人生を導いてくださった恩師の東京大学大学院新領域創成科学研究科の渡邉俊樹教授、日本全国から並々ならぬご支援をいただいております共同研究先の先生方、普段より良きアドバイスとサポートをしてくれる渡邉研究室の皆様に心より感謝いたします。
最後に、ときには挫けそうになる研究生活を支え、暖かく応援してくれる妻と愛娘に心から感謝しています。