概要・活動内容

国際交流委員会

The Basic Science of Sarcomas および
2015 Connective Tissue Oncology Society (CTOS) Annual Meeting 参加報告

東京大学 医科学研究所 ヒトゲノム解析センター シークエンス技術開発分野
平田 真


今回、文部科学省科学研究費進学術領域研究「がん研究分野の特性等を踏まえた支援活動」・国際交流委員会海外派遣事業の助成をいただき、アメリカ合衆国ユタ州ソルトレイクシティにて開催されたThe Basic Science of Sarcomas(2015年11月3-4日開催)および2015 CTOS Annual Meeting(2015年11月4-7日開催)に参加させていただいたので、ここに報告する。

The Basic Science of Sarcomas

The Basic Science of Sarcomasはアメリカがん学会AACR (American Association for Cancer Research)が主催しCTOS Annual MeetingのComplementary Programとして開催された。本会ではその希少性ゆえに基礎研究分野においても他のがん腫と比較して立ち遅れている感の否めない骨軟部腫瘍領域にあって、がんゲノム、代謝、免疫などの分野でインパクトの高い研究成果を上げている研究者らの講演が企画されていた。この内のいくつかを以下に紹介させていただく。

ワシントン大学E.R. Mardisは、TCGAのゲノム解析の結果を報告した。TCGAでは様々ながんについて多施設で多くの症例を収集・解析し、データベースの構築を進めており、その中で悪性軟部腫瘍は261症例が登録されている。このうち206例の全エクソン解析、41例の全ゲノム解析などの結果を用いて、Copy Number Alteration、Mutation call等の解析を行い、腫瘍組織ごとの変異数の分布、頻度の高い遺伝子変異(最多はTP53)、主要な遺伝子のHot Spot Mutation などの解析結果をまとめて報告した。現在、我々も同様のゲノム解析を遂行中でもあり、今回の解析でどこまでが明らかとなり、今後どのような解析をすべきかということを考えさせられる内容であった。

プリンセスマーガレットがんセンターのR. Khokhaは骨芽細胞特異的にRb、p53、Pkar1aを欠損させた骨肉腫モデルマウスを作成し、MOTO(murine osteocalcin SV40 T/t antigen osteosarcoma)マウスと命名した。これにより発生する骨肉腫においてはreceptor activator of nuclear factor kB ligand (Rankl) の発現が亢進しており、Ranklの遺伝子欠損マウスや破骨細胞特異的にRankの発現を欠損させることで骨肉腫発生が抑えられること、Rank-Fcによりそのパスウェイを阻害することによっても腫瘍の進展、転移が抑えられることを報告した。抗RANKL抗体は既に臨床的に導入されており、骨肉腫への応用の可能性を強く示唆する内容であった。

ダナ・ファーバーがん研究所のC. Kadochは非常に精力的に早口で講演される姿がとても印象的で、30歳という若さでテニュア-トラックによりPIとなりMIT Innovators 35 Under 35にも選ばれた研究者である。彼女を現在の立場に押し上げた研究成果である滑膜肉腫におけるSS18-SSX融合タンパクによるBAF complexの機能異常を介したSOX2の発現誘導についての話を中心にこのBAF complexの異常によるエピゲノムへの影響について最新の知見を発表した。

このほか、腫瘍細胞の代謝特性のひとつであるGlutaminolysisの亢進に対してin vivoとin vitroでのGLS阻害剤の効果の違いを発表されたワシントン大学のM.G. Vander Heidenや、骨軟部腫瘍のWHO分類の変遷について語られたマウントサイナイ病院のR.G. Makiなどの講演も大変興味深い演題であった。この数年CTOS Annual Meetingには毎年参加しているが、本会は今回初めて企画されたものであり、骨軟部腫瘍の基礎研究に従事するものとしては、ぜひ今後も継続していただきたい充実した内容であった。

2015 CTOS Annual Meeting

CTOSは骨軟部腫瘍領域における、基礎から臨床まで幅広い分野の研究を網羅する国際学会である。本会の規模は年々大きくなってきているが、今年のひとつの傾向として例年より臨床の演題が少なく、ゲノム解析関連の演題が多く見られた。また、他のがん腫で大きな流れとなっているがん免疫についての演題はまだあまり見られなかった。規模が大きくなってきているとはいえ内容はコンパクトで、基礎と臨床双方の演題を聴講する良い機会を与えてくれる学会であり、骨軟部腫瘍というマニアックな分野で臨床や研究に従事しているコアな人々と出会えるため、個人的には毎年興味深く参加させていただいている。会の演題構成は組織型ごと(血管肉腫・血管内皮腫、滑膜肉腫、軟骨肉腫、骨肉腫など)に割り当てられたSessionと研究内容ごと(動物モデル、ctDNA、Genetic Riskなど)に割り当てられたSymposiumとが交互に企画されていた。

ここではひとつ少し変わった演題を紹介する。A. Gronchiは四肢発生の軟部腫瘍について切除後の予後予測ノモグラムを作成した。これにより、年齢、悪性度、組織型、切除縁評価などの項目を入力することで5年生存率、10年生存率を予測できるというアプリ(SARCULATOR)を開発し報告していた。まだ実際の臨床の現場で用いられることはないと思うが、今後の臨床データの積み重ね、入力項目の検討などにより、より正確な予測が可能となるものと思われる。(現在このアプリはフリーで入手できるが、知識を持たない一般へ普及してしまうのは少し怖い気もする。)
また、ゾウのゲノム解析を行い、p53をコードする遺伝子のコピー数の多さを解明し、ゾウの悪性腫瘍発生頻度が少ない理由のひとつとして発表されたユタ大学のJ. Schiffmanの講演も学会中大きな話題を呼んでいた。

発表される研究内容は年々高度なものとなってきており、希少性ゆえに立ち遅れているといわれていたこの分野における研究も一部では主要ながん腫の研究に勝るとも劣らない研究が行われてきているように思う。昨今、個別化医療という言葉を色々な場面で耳にするが、今後、個別化医療の実現に向けて研究が進んでいくなかで、希少がんという概念もなくなってくるのではないかと思われる。骨軟部腫瘍の研究に従事するものとして、まずはその希少がんという枠組みを取り払えるような研究を遂行していきたいと改めて思う学会参加となった。

Hospital for Sick Children, Mt. Sinai Hospital, Torontoの医師・研究者とのディスカッション

今回これらの学会に参加したもうひとつの目的は、本学会に同じく参加したトロントの骨軟部腫瘍研究者と現在遂行中の研究プロジェクトについてディスカッションをすることである。昨年までHospital for Sick Childrenに留学し、軟骨腫瘍における IDH1/2変異についての研究を行っていた。現在もその成果に基づき日本で研究を進めているが、以前所属していた研究室(およびその共同研究先)とは共同研究を継続しており、連絡を取り合っている。内容の詳細は現在も研究を遂行中のため記載を控えるが、論文投稿準備に当たっての研究結果および今後の解析方針、手法についてのディスカッションを行うことができた。1年ぶりの再会であり、他のラボメンバーの現況を知り、当時を懐かしく振り返る良い機会ともなった。

謝辞

最後にこのような大変貴重な機会を与えていただいた「がん研究分野の特性等を踏まえた支援活動」総括支援活動班班長の中村卓郎先生、国際交流委員会委員長の石川冬木先生、また研究者海外派遣事業の採択通知から学会出張まで1ヶ月足らずという短い期間の中で事務手続きを進めていただいた総括支援班の平野尚子様をはじめ事務局の皆様にはこの場をお借りして心より御礼申し上げます。ありがとうございました。