概要・活動内容

国際交流委員会

57th American Society of Hematology Annual Meeting への参加と
Cincinnati Children’s Hospital Medical Center への訪問

京都大学医学部附属病院 輸血細胞治療部
横田 明日美

はじめに

今回、フロリダ州オーランドで開催された第57回米国血液学会での研究発表と、シンシナティ小児病院医療センターのGang Huang先生の研究室を訪問させていただくにあたって、国際交流海外派遣支援のプログラムから貴重なサポートをいただくことができました。このレポートでは、その時の体験や感じたことなどを記したいと思います。

57th American Society of Hematology(ASH)Annual Meeting

2015年12月5日〜8日の開催期間でオーランドにて開かれたASHは、アメリカ国内のみならずアジア、ヨーロッパ、オーストラリアなど世界中から血液臨床医や血液学研究者が集います。非常に多くの一般演題、シンポジウムが同時に進行するため、興味のある演題を聞きに行くためには広大なコンベンションセンターを早歩きで端から端へ移動しなくてはならず、歩きやすい靴、動きやすい服装が必須です。毎年学会は土曜日からの開催ですが、その前日の金曜日から幾つかのワークショップが開かれます。金曜日のお昼過ぎにオーランド国際空港に到着し、荷物を一旦ホテルに置いてからMyeloid Developmentのワークショップ会場に向かいました。ミエロイド造血、また骨髄異形成症候群や急性骨髄性白血病などの研究分野で高名な研究者が、1人10分ほどの持ち時間で研究内容を発表していくのですが、25題ほどの発表がお昼過ぎから夜まで続き、非常に密度が濃く、内容も当然ですが、それぞれの研究者のプレゼンテーションの仕方も様々で、大変勉強になります。

自分自身の発表は日曜日のポスターセッションでした。今回は、昨年のASHでの発表内容を踏まえ、さらに詳細な検討を行った結果を報告しました。京都府立医科大学の奥田恵子先生との共同研究において、私達はABLファミリーに属するABL1とABL2キナーゼ分子の比較検討から、ABL2キナーゼのC末端領域に存在する抗造腫瘍活性ドメインの同定と機能解析を行っています。マウスにおいて、ABL1の恒常活性型は、成熟好中球の著増を特徴とした骨髄増殖性腫瘍を引き起こし、この病態はBCR-ABL1が引き起こす慢性骨髄性白血病と類似しています。

一方で、ABL2の恒常活性型は好中球増多を誘発することは無く、全身性肥満細胞腫を引き起こします。今回、in vitroでの詳細な検討を行い、恒常活性型ABL2が、IL-3およびSCF誘導性の肥満細胞の分化と増殖を強力に促進することが明らかとなりました。C末端領域を除いて非常に相同性の高いABL1の恒常活性型ではこのような現象は認められず、ミエロイドへの細胞分化を誘導します。
これらから、ABL2の活性化は肥満細胞増多をきたす疾患や正常の肥満細胞分化に何らかの重要な影響を及ぼす可能性が考えられました。分子メカニズムについては今後さらに検討を行う必要がありますが、今回の検討によって、キナーゼ活性は同等であるABL1とABL2が、細胞分化に全く異なる影響を及ぼすことが初めて明らかとなりました。

BCR-ABLキナーゼについて研究を行っているUCSFのグループの方が、昨年に引き続き今年もポスターを見にいらしてくださり、私達の発表内容について他のグループから興味を持っていただいていることが大変嬉しく感じられました。また、恒常活性型ABL2キナーゼによる肥満細胞腫の詳細な病態解析結果を提示していたので、実際の肥満細胞腫の臨床症例におけるABL2キナーゼの遺伝子異常の報告の有無についても、肥満細胞腫の研究をしておられる方から質問をいただきました。肥満細胞腫発症に寄与する遺伝子異常として最も知られているものは、肥満細胞の増殖や生存に重要なシグナルを担うサイトカインSCFの受容体・c-Kitの恒常活性化をもたらす遺伝子変異です。しかしながら、c-Kit変異が検出されない肥満細胞腫症例も存在することから、発症に寄与する他の遺伝子変異の探索が、ゲノムワイドな解析技術の進歩によって網羅的に行われている状況です。よって、将来ABL2キナーゼの活性化やその下流の活性化が誘導されるような新規の遺伝子変異が同定される可能性もあると考えられます。

全く別の造血器腫瘍ですが、急性リンパ性白血病の一部のサブセットでABL2キナーゼの遺伝子変異が見出されることが今回のASHで初めて報告されており、これまでほとんど知られていなかったABL2キナーゼの異常と疾患との関連性が示唆される興味深い内容であると思いました。その発表の筆頭演者の方がポスターを見に来てくださり興味を持ってくださったことも、今回のASHでの発表で嬉しく感じたことの1つでした。

学会場の様子

Cincinnati Children’s Hospital Medical Center

学会終了の翌日、フロリダ州オーランドから北のオハイオ州シンシナティへと、マイアミを経由するという変わったルートで向かいました。温暖なオーランドと全く異なり、シンシナティは京都とほぼ同じような気候でした。空港からChildren’s Hospitalまでは高速道路で約20分程度です。広大な病院で、内装も赤や黄、青や緑といった明るい色が効果的に使われていて、中を歩いていて医師や看護師とすれ違うことや診療科の表示パネルが出ている以外は、全く病院であることに気づかないくらいです。廊下にもクリスマスツリーやリースがあちこちに飾られ、壁にも必ずカラフルな絵が架けられており、とても明るい印象でした。その病院のすぐ近くに研究棟が建っています。研究棟は古い順からR、S、Tと名前が付けられており、写真は一番新しいT 棟です。研究棟間も繋がっていて行き来が可能ですが、複雑であったので2日間では位置関係を覚えることが全くできませんでした…。

今回訪問させていただいたのは、Division of Experimental Hematology and Cancer BiologyのAssistant ProfessorでいらっしゃるGang Huang先生のラボです。Gang Huang先生は、PU.1やRunx1といった造血制御に関わる重要な転写因子の研究を行ってこられ、最近では特に骨髄異形成症候群や急性骨髄性白血病発症の分子機構について緻密なご研究をされておられます。現在の私の指導教官である平位秀世講師とGang Huang先生は、以前ボストンの同じラボでポスドクとして研究をされていた頃から親交があり、今回研究の打ち合わせのため訪問させていただきました。

2日目に、ラボのメンバーの方々に参加いただき、ランチを取りながら自分自身の研究テーマについて発表をさせていただきました。Gang Huang先生からは内容の細かい部分に関して自分自身では思い至らなかった様々な点についてご指摘いただき、有意義なディスカッションをさせていただくことができました。その後、ラボのメンバーの方々からそれぞれの研究内容についてご紹介いただきました。Gang Huang先生のラボでは、造血器腫瘍に関連した様々な変異遺伝子のノックインマウスなど、多くの遺伝子改変マウスを維持しています。これらマウスモデルを用いて、白血病や骨髄異形性症候群の発症機序を解明し、さらに臨床検体でも検証を行うことで、新規治療標的の探索を行うことを目指しています。

Gang Huang先生のラボを含む血液の分野のラボはオープンラボになっていて、お互いの距離がとても近く、横断的な研究カンファレンスと抄読会を定期的に行っており、このような機会も日本ではなかなか得られないものであると思います。ちょうど週1回の抄読会の日と重なったため聴講させていただくことができたのですが、血液に限らず多岐にわたる分野の論文が紹介され、最新の論文についての情報を共有することで知識を深められる環境は素晴らしいと思います。

今回の訪問では、Medical Center内の他の研究室に所属する日本人研究者の方々ともお話しすることができました。私自身も将来留学することを考えておりますので、アメリカでの留学生活について直接お話をお聞きすることができ、貴重な経験をさせていただきました。大変有り難く感じています。

Cincinnati Children’s Hospital Medical Center研究棟の外観

さいごに

今回のASHでの発表、また研究についてご指導をいただきました、京都府立医科大学 奥田恵子先生、京都大学医学部附属病院輸血細胞治療部 前川 平教授、平位秀世講師、今回のご訪問を受け入れてくださいましたCincinnati Children’s Hospital Medical CenterのGang Huang先生、林 慶紘先生、そしてラボのメンバーの方々、ご親切にしていただきました日本人研究者の先生方とご家族の方々には心から感謝申し上げます。
また、このような貴重な機会をくださいました、石川冬木先生はじめ国際交流委員会の先生方、手続きに関しまして常にご丁寧にサポートくださいました事務局の平野尚子様には厚く御礼申し上げます。