概要・活動内容

国際交流委員会

56th Annual Drosophila Research Conferenceに参加して

京都大学大学院生命科学研究科
中村麻衣

はじめに

平成26年度文部科学省「がん研究分野の特性等を踏まえた支援活動」国際交流海外派遣事業の助成をいただき、平成27年3月5日から8日までの4日間、アメリカのシカゴにおいて開催された56th Annual Drosophila Research Conferenceに参加させていただきました。
本大会は、ショウジョウバエ研究の世界最大の国際会議であり、またショウジョウバエがん研究コミュニティのメンバーが一堂に会する場でもあります。本大会において「non-cell autonomous tumor progression by cellular senescence」というタイトルでポスター発表を行ってきました。ポスターセッションは3日間行われ、世界中の多くの研究者と意見を交換するまたとない機会となりました。

今回の発表について

これまでに私たちは、ショウジョウバエをモデル生物として用い、がん遺伝子Rasの活性化とミトコンドリアの機能障害というがんで高頻度に観察される変異を同時に起こした細胞(RasV12/mito -/- 細胞)が、周辺組織のがん化を促進することを明らかにしてきました。この変異細胞は炎症性サイトカインUpd (IL-6ホモログ分子)を産生・放出し、周辺細胞のJAK/STATシグナルを活性化して増殖を促進します。興味深いことに、変異細胞自身はUpdを受け取っているにもかかわらず増殖しません。私はこのことに着目し、RasV12/mito -/- 細胞において何が起きているのかを解析してきました。その結果、RasV12/mito -/- 細胞は細胞周期をG1期で停止させ細胞老化を引き起こしていることを発見しました。また、哺乳類の培養細胞において用いられている種々の細胞老化マーカーを調べた結果、Rasの活性化に加えてミトコンドリアの機能障害が同時に起こることで初めて完全な細胞老化が誘導されることが分かりました。また、細胞老化を起こした細胞が分泌性のタンパク質を産生・放出するsenescence-associated secretory phenotype(SASP)と呼ばれる現象が存在しますが、RasV12/mito -/- 細胞はSASPと同様の現象により周辺細胞の悪性化を誘発することが分かりました。さらに、このSASP誘導のメカニズムを解析した結果、RasV12/mito -/- 細胞はp53の活性化とCycEの不活性化によって細胞周期を停止させ、細胞周期の停止とストレス応答キナーゼであるJNKシグナルの活性化の相互依存的な増幅を誘導してJNK経路を強く活性化し、Updの発現誘導を引き起こすことを明らかにしました。
実際のヒトの腫瘍組織は様々な変異を持った異なるクローンが存在する非常にヘテロな集団であるため、このような細胞老化を起こした細胞が周辺細胞の悪性化を促進する機構が存在する可能性が考えられます。この結果は、細胞老化現象が無脊椎動物にも存在する普遍的な現象であることを初めて示すとともに、その分子メカニズムを生体レベルで遺伝学的に明らかにできたものです。一方で、ミトコンドリアの機能障害以外にも、エンドサイトーシス破綻、mRNA成熟異常、DNA複製ストレスなどを引き起こす一連の変異によって同様の現象が起こることを見いだしており、今後はこれらの共通メカニズムを解析し、その普遍性を明らかにすることで、細胞老化のがん微小環境における役割と生理的意義を明らかにしていきたいと考えています。
多くの研究者に発表を聞いていただき、貴重な意見をいただきました。本大会においてポスター発表を行った経験は、今後の研究の発展と自身のステップアップに繋げていきたいと思います。

ポスター会場の入り口にて

おわりに

シカゴには今回初めて訪れました。シカゴは北米有数の世界都市であり、近代的な高層ビルが建ち並んでいましたが、中心街はこぢんまりとしていて歩いて回ることができました。訪れた3月は非常に寒い時期で、さらに会場はミシガン湖の畔にあり吹く風は強く冷たく、5分も歩けば顔が痛くなるほどでした。食事は他の研究者と毎食を共にし、シカゴ名物のシカゴピザやアメリカの文化であるハンバーガーなどを食べながら同世代の研究者やシニア研究者と意見を交換し、大変有意義な時間を過ごすことができました。
最後になりましたが、このような大変貴重な機会を与えていただきました国際交流委員会の諸先生方、また事務手続き等で大変お世話になりました総括支援班の平野様にはこの場をお借りして心より御礼申し上げます。このたびは、本当にありがとうございました。