概要・活動内容

国際交流委員会

Keystone Symposia on Genomic Instability and DNA repair参加報告

金沢大学医薬保健研究域薬学系 遺伝情報制御学研究室
若杉 光生

はじめに

この度、平成26年度新学術領域「がん支援」国際交流委員会の海外派遣事業による助成により、Keystone Symposia on Genomic Instability and DNA repair(平成27年3月1日〜3月6日:カナダ・ブリティッシュコロンビア州・ウィスラー)に参加させて頂いた。
この会議はDaniel Durocher(Lunenfeld-Tanenbaum Research Institute), Jiri Lukas(Novo Nordisk Foundation Center for Protein Research), Agata Smogorzewska(Rockefeller University)によってオーガナイズされ、ゲノム安定性の維持に関わる様々なDNA損傷応答機構の最新の知見やその臨床応用について議論された。またこの会議はSimon J. Boulton(London Research Institute), Karlene A. Cimprich(Stanford University), Stephen D. Bell(Indiana University)によってオーガナイズされたKeystone Symposia on DNA replication and Recombinationとの合同会議として開催され、DNA複製機構に関する最先端の研究も聴講できるまたとない機会であった。私自身も休止期のヌクレオチド除去修復機構を介して活性化するDNA損傷応答反応に関する研究について、ポスターセッションにおいて発表の機会を頂いた。
以下、会議で取り上げられた代表的な課題について概説したい。

会場となったWhistler Conference Centre

課題について

ゲノム安定性の崩壊は、がんをはじめとする種々の疾患や老化の原因になることから、ゲノム安定性の維持に寄与するDNA damage response(DDR)の理解は極めて重要であり、抗がん剤による効果的な治療という観点からも、DDRを標的とする薬剤の開発は非常に注目されており、本会議も4つの製薬企業が支援を行なっていた。
本会議は、University of CambridgeのDr. Stephen P. Jacksonによる”Assembly and Disassembly of Protein Complexes at Sites of DNA Damage”、Cancer Research UK London Research InstituteのDr. John F. X. Diffleyによる”Right Place, Right Time: Eukaryotic DNA Replication Mechanism and Regulation”と題する2つの基調講演から始まった。DNA double-strand break(DSB)に対するDDRとDNA複製の2つの分野をそれぞれ牽引してきた二人による講演は圧巻というしかなく、しばらく興奮が止まらなかった。
Dr. Jacksonは、転写制御研究におけるDNA-PKの発見から本格的にDDRの研究に携わって22年目になるそうだが、その契機となった研究からDSB修復経路の一つであるnon-homologous end joining(NHEJ)に働くXRCC4とXLFのパラログであるPAXの発見や脱ユビキチン化酵素の包括的な解析を含む最新の研究成果までを総括する内容で、気づくと1時間以上が経過していたが、聴衆を飽きさせることのない圧倒的な迫力で講演を行なった。また、DDRに関わるタンパク質を標的とした薬剤のがん細胞への選択的作用について、BRCA1/2を欠損したがん細胞に対するPARP inhibitorの効果を例に述べ、いわゆる合成致死を利用した治療の有用性についても強調していた。また、Dr. Diffleyは、出芽酵母を材料とし、DNA複製が開始されるまでの過程を16種類の精製したDNA複製タンパク質とリン酸化酵素を用いて試験管内で再構成を行い、in vivoで観察されるOrigin-dependentな複製開始過程とその制御に必須なタンパク質を明らかにした。
精製した16種類のタンパク質を並べた1枚のスライドは圧倒的な迫力で、これらのタンパク質を巧みに用いた実験結果を理路整然と述べる講演は非常に説得力があり、とても感激した。

以上の二人の基調講演の後も、既に一流誌に掲載された、もしくは掲載が決まっている(?)と思われる興味深い研究成果が続々と発表された。その中でも、Dr. T. de Lange(Rockefeller University)による53BP1依存的なDNAの可動性を制御するLINC complexの解析、Dr. D. DurocherによるDNA endo resectionの制御における脱ユビキチン化酵素の役割とその調節機構、Dr. J. LukasによるHigh-contentなcellular imagingの定量的解析法(QIBC)を用いたDSB修復経路の選択機構の解析、Dr. A. Nussenzweig(National Institutes of Health)によるPTIP-MLL4ヒストンメチルトランスフェラーゼ複合体が誘導する複製フォーク不安定化の分子機構、Dr. S. Elledge(Harvard Medical School)による複製ストレスにより誘導されるユビキチンシグナリング経路の網羅的解析により同定したユビキチン化タンパク質の解析、Dr. F. d’Adda di Fagana(IFOM Foundation, National Research Council)によるDDRにおけるncRNAの機能に関する解析等が特に印象に残った。ポスター発表も含めた会議全体の中で、DDRに関与する新規タンパク質が続々と報告され、細胞内もしくは生体内では想像以上に複雑で緻密な制御機構が働いていることが明らかにされつつあり、新たな研究の局面が切り開かれて行く雰囲気を非常に強く感じた。そして、これらの素晴らしい発表に対しても途切れることのなく質問が投げかけられ、質の高いDiscussionが次々と繰り広げられていたのも非常に印象的であった。

終わりに

ウィスラーを訪れたのは今回が初めてであったが、雄大な自然の中にある奇麗なリゾートで、会期中もウィンタースポーツの好きな人が多く訪れていた。また、学会会場は朝食から夜のポスター発表まで熱気にあふれていたが、周辺のレストランやパブ等はウィンターリゾートを満喫する人達であふれており、会場の外も夜まで賑やかであった。今回の学会は“寒い”というイメージのあったカナダしかも高所の山岳地帯にあるウィスラーでの開催にもかかわらず、私自身は出発直前まで風邪により咳が止まらない最悪の状態で体調的に不安であったが、国際空港のあるバンクーバは緯度の割には暖流の影響で比較的温暖な気候だそうで、桜まで咲いていた。また今年は暖冬らしく、ウィスラーにおいてもホテルから会場までの間に全く雪はなく(リフトで上ったところには十分な雪はある)、日中は気温もそれほど下がらなかったのも幸いし、学会と同時にリゾートの雰囲気も楽しみながら、今後の研究について考える貴重な機会になりました。

朝、会場に向かう際に見えるウィスラーの山々

スキーヤーで賑わう会場近くのリフト付近

最後になりますが、このような大変貴重な機会を与えてくださいました石川冬木先生をはじめとする国際交流委員会の諸先生方、そして事務手続きで大変お世話になりました総括支援班の平野尚子様に心よりお礼申し上げます。
今後もこのような支援活動が継続され、さらに発展されることを強く希望します。