概要・活動内容

国際交流委員会

Cold Spring Harbor Laboratory 2015 Meeting “System Biology: Global Regulation of Gene Expression”への参加およびMassachusetts Institute of Technology訪問報告

藤田保健衛生大学総合医科学研究所遺伝子発現機構学研究部門
亀山 俊樹

はじめに

新学術領域「がん研究分野の特性等を踏まえた支援活動」平成26年度国際交流海外派遣事業の助成を受け、2015年1月28日〜2月1日にプエルトリコ、リオ・グランデで開催されたCold Spring Harbor Laboratory 2015 Meeting “ System Biology: Global Regulation of Gene Expression”に参加しました。また、CSHL Meetingの後、マサチューセッツ州ボストンに移動しMITのChristopher B Burge研究室を訪問しました。

Cold Spring Harbor Laboratory 2015 Meeting “System Biology: Global Regulation of Gene Expression”

Cold Spring Harbor Laboratoryは毎年研究所で30を超えるミーティングを開催していますが、今回参加しましたSystem Biologyのミーティングもそのひとつです。これまでは3月に隔年で開催されていたのですが、この分野の研究の進展が早いことを鑑み今年からは毎年開催、会場は避寒地であるプエルトリコとニューヨーク州にある研究所と1年毎に変えて開催することになったようです。今回の会場は熱帯地域のプエルトリコでしたが、おりから1月27日・28日にかけてアメリカ北東部は歴史的な雪嵐に見舞われて数千便の飛行機が欠航となり、私自身も含め多くの参加者が影響を受けました。天候の影響によりプログラムの順番など大きな変更を余儀なくされましたが、ミーティング自体は時間通りに「さあ、これからエンターテイメントを始めましょう!」というチェアマンのかけ声で開会し、熱い議論がなされました(写真1)。
ミーティングは大きく分けてクロマチンとエピジェネティクス、転写制御因子ネットワーク、RNAとその制御の話題が中心でした。発表したグループの多くはもちろん次世代シークエンス解析を軸に研究を進めていますが、ただ網羅的にシークエンスを読むばかりでなく複数の切り口で解析を進め遺伝子の発現制御について複眼的に文字通りシステムとしてとらえているという印象が強く残りました。私の関係するRNAの領域に関しては3’UTRに関しての演題が多数を占めていました。3’UTRには多くのmicroRNA結合配列が存在し、また、3’UTRの短縮が細胞のがん化と関連する事が知られていますが、PAPERCLIP法やTAIL-seq等新手法の組合せにより、より正確にかつ精密にグローバルにpoly(A)鎖長を解析する手法が紹介されていました。また意外な3’UTRの機能として、CD47, CD44, integrin α1等膜タンパク質の細胞膜への移行にも影響を及ぼすことが紹介されました。3’UTRに結合するRNA結合蛋白質が他のタンパク質をリクルートすることがその原因であると示されたのですが、3’UTR鎖長の変化によりアミノ酸配列に変化が無くても機能に影響を及ぼす、すなわち3’UTRの長さがタンパク質の翻訳効率のみならず機能そのものにも影響を及ぼすという点で非常に興味深い報告でした。網羅的なトランスクリプトーム解析により現在も新しいタイプの制御RNAの発見がなされています。今回もその様な新しいタイプのRNAとして数百もの環状RNAがヒトとマウスの脳で発現し保存されている事とその生成機構の一端が報告されていました。環状RNA ciRS-7(CDR1as)がmiR-7のスポンジとして作用しその発現を調節するものとして2013年に報告されて以来、細胞内の新たな分子種である環状RNAがにわかに注目されはじめています。今回の発表では神経細胞の分化に関わる環状RNAに着目していましたが、miR-7はがん抑制性のmicroRNAであることを考えると、ciRS-7 (CDR1as)を含め新たな環状RNAの探索と機能解析が細胞のがん化との関連でこれからさらに注目を集めるのではないでしょうか。

写真1 CSHL2015 Meeting “System Biology: Global Regulation of Gene Expression”会場内の様子

MIT Christopher Burge研究室訪問

CSHL 2015 Meetingを終えて120年ぶりという歴史的大雪のボストンへ移動し、MITのChristpher Burge研究室を訪問しました(写真2, 3)。Chris Burge研は2008年に最初にRNA-seqを使ったトランスクリプトーム解析を報告したグループとして知られますが、一貫してRNAの発現制御とそのバイオインフォマティクスで著名な研究室です。私自身は、これまでにスプライシングが終了したはずの成熟mRNAが、がん細胞では再びスプライシングされ異常に短い転写産物が生成してしまうという「がん細胞特異的成熟mRNA再スプライシング現象」を報告し、現在、がん細胞で何故成熟mRNAが再スプライシングされるのかという機構の解明と共に、成熟mRNA再スプライシングの影響を網羅的に解析する研究を進めています。成熟mRNA再スプライシングによる影響の網羅的解析の為にスプライシング反応の副産物である投縄状RNAを濃縮し、そのRNA-seq解析を行っておりますが、マッピングにも特殊なプログラムを必要とします。今回の訪問に際し、派遣前に実施した次世代シークエンスデータを持参し、Chris Burge研究室で開発したプログラムを用いて解析を行ってまいりました。また、そのプログラムをいただくことができましたので帰国後も精力的に解析を続けていく所存です。
さらに、解析の合間になりますが、Harvard Medical Schoolの小林進博士に招かれBeth Israel Deaconess Medical Centerに於いてセミナーをさせていただく機会も得て様々な議論と多くの有益なアドバイスをいただく事ができ、非常に有意義なボストン滞在となりました。

おわりに

今回のプエルトリコとボストン訪問では、出発前日に入ったアメリカ北東部大雪によるニューヨークJFK空港閉鎖による搭乗予定便欠航連絡に始まり、プエルトリコからの移動時もボストンの大雪の影響での再び欠航、最終日も大雪で滑走路及び機体を除雪しながらの中で帰国便が本当に無事飛び立つことができるのか?と、天候には大いに悩まされました。しかしある意味、移動に関する様々なトラブルシューティングという貴重な(?)経験を積むことができたともいえるかもしれません。また、この時期のプエルトリコはまさに避寒地としてほどよい暑さで、休憩中や食事時に綺麗なビーチを眺めながらの参加者同士の語らいも楽しむことができましたし(食事もホテルが用意しますのでCSHL研究所内の食堂に比べ種類も抱負で美味しかった事は特筆に値することかもしれません)、移動の面では悩まされたとはいえ120年ぶり大雪という白銀のボストンも美しく得難い体験でした。
最後になりますが、この様な貴重な機会を与えていただきました文部科学省新学術領域「がん支援」国際交流委員会の先生方、事務手続き及び搭乗便変更への対処など大変お世話になりました総括支援活動班の平野尚子様に深く御礼申し上げます。

写真2 雪のMITグレートドーム

写真3 研究室の入るMIT Building 68 (Koch Biology Building)