概要・活動内容

国際交流委員会

56th American Society of Hematology Annual Meeting & Expositionに参加して

京都大学医学部附属病院 輸血細胞治療部
横田 明日美

はじめに

今回、サンフランシスコにて2014年12月6日〜12月9日の4日間に渡って開催された第56回アメリカ血液学会年次総会に出席し、発表する機会をいただいた。アメリカ血液学会は、アメリカをはじめ、ヨーロッパやアジア各国からも多数の演題が寄せられ、血液臨床医、基礎研究者が参加する世界最大規模の血液学関連の学会である。会場のMoscone Centerはサンフランシスコの中心街に位置し、周囲には巨大なチャイナタウンやユニオンスクエアがあり、クリスマス前の華やかな雰囲気に包まれていた。まだ薄暗い朝7時から夜の8時頃まで連日スケジュールが詰まっている密度の濃い学会であり、街を歩く人のほとんどがコングレスバッグを手に参加証を首にかけた学会参加者であることから、この学会の規模の大きさを改めて感じた。  最終日には学会場から少し足を伸ばしてサンフランシスコ湾のフィッシャーマンズワーフとそこに集うアシカ、また有名なアルカトラズ島を観て回ることもできたが、楽しみにしていたゴールデンゲートブリッジはあいにくの曇天のため霧がかかって綺麗に見ることができなかったのが残念だった。

今回の発表内容について

今回、ポスター発表に採択いただいた演題は、約1年半前から京都府立医科大学の奥田恵子博士と共同研究として進めてきた研究内容であり、非受容体型チロシンキナーゼであるABLファミリーキナーゼ、ABL(ABL1)とARG(ABL2)の造腫瘍活性の差異を両者の生化学的特徴と関連付けて、主にマウス白血病モデルにおいて検討するものである。ABLとARGは、N末端領域、キナーゼドメインではアミノ酸配列で90%以上の相同性を有している一方、C末端領域では30%程度と大きく異なっており、ABLのC末領域はDNA結合ドメイン、核内局在シグナルを有しているものの、ARGにはどちらも存在しない(図1)。これらABLファミリーキナーゼ遺伝子が、染色体転座の結果ETV6(TEL)遺伝子と融合して、TEL-ABL、TEL-ARGといったキメラ蛋白が形成され、いずれも急性骨髄性白血病やT細胞急性リンパ性白血病などで頻度は低いながらも見つかっている。TEL-ABLは単独で骨髄性白血病を引き起こすことがこれまでも報告されているが、TEL-ARGはPML-RARα等の他の主要な染色体転座と共に見つかっているため、TEL-ARG単独での造腫瘍活性は不明であった。これまでの我々の検討から、TEL-ABLとTEL-ARGは同等のキナーゼ活性を有しており、基質となるシグナル分子の種類やリン酸化レベルにも差異は認められないものの、in vitroでの形質転換能はTEL-ABLと比較してTEL-ARGで顕著に低く、ABLとARGのC末端領域を入れ替えると形質転換能も大きく変化することから、ABLキナーゼのC末端領域がキナーゼ活性とは独立して形質転換能に重要な影響を与えていることが示唆される。
今回、TEL-ABLとTEL-ARGをそれぞれレトロウイルスにてマウス骨髄細胞に導入し、移植することで白血病モデルを作製して観察を行ったところ、TEL-ABLが移植後1ヶ月程度で全例で急性骨髄性白血病を引き起こすのに対して、TEL-ARGでは骨髄性白血病の発症は1例も認めず、約半年後に全身性肥満細胞腫を引き起こすという全く異なる造腫瘍活性を示すことが明らかとなった。興味深いことに、ABLとARGのC末端領域を入れ替えた置換体を作製して同様に白血病モデル作製を行ったところ、ARGのC末端領域を有するTEL-ABLであるTEL-ABL(ARG-C)では造白血病活性は顕著に抑制され、骨髄性白血病の発症は認められなかった。一方、TEL-ARG(ABL-C)では一部の個体で骨髄性白血病の発症が認められ、ABLファミリーキナーゼのC末端領域の差異が、増殖のみならず細胞分化にも大きな影響を与えていることが考えられた。現在、C末端領域内のどの部分によってこのような差異が生じるのかについて、検討を進めているところである。

図1:ABLとARGの構造模式図

今回の学会での体験

ポスターセッションは連日夕方6時頃から始まり、会場ではワインやビール等アルコールと軽食が提供され、座長の進行等も無く2時間のディスカッションの時間が取られている。参加者はアルコールを片手に、2つの建物に分かれている広大なポスター会場を見て回り、目当ての演題の演者とのディスカッションをたっぷりと行うことができる。こちらもワインを少しいただきながらポスターの前に立ち、見に来てくださる方々にはintroductionから丁寧に説明するよう心がけた。不慣れな英語のせいもあるかもしれないが、気づいてみると2時間はあっという間に過ぎ去ってしまった。
中でも印象深かったのが、TEL-ARGをT細胞急性リンパ性白血病の症例で初めて報告されたオークランド大学のStefan Bohlander博士が我々の基礎研究の内容について興味を持って見に来てくださり、ディスカッションをもつことができたことであり、今回の学会で嬉しかったことの1つである。その他、多くの研究者の方々と初めてお話することができ、我々が思いもよらなかった点、また気になっていた点についても改めて指摘やアドバイス、質問を受けることができたことも、普段の研究生活では得られない大変貴重な経験であったと思う。全身性肥満細胞腫がTEL-ARGによって引き起こされる機序についての質問が多く、詳細については現在in vitroの実験系で検討を行っておりデータが得られつつあるところだが、これらデータを含めてまた発表する機会をもつことができればと思った。また、今現在アメリカの研究室でポスドクとして研究されている日本人やアメリカ人の方々とお話する機会がもてたことも、留学を考えている自分自身にとって大変刺激となった。

おわりに

最後になりましたが、今回の学会参加にあたり、このような貴重な助成をいただくことができまして、石川冬木先生はじめ国際交流委員会の先生方に感謝申し上げます。また、手続き等で大変お世話になりました平野尚子様にも心より御礼申し上げます。ありがとうございました。

フィッシャーマンズワーフとアシカの群れ