概要・活動内容

国際交流委員会

American Society of Hematology参加報告

東京大学医科学研究所 幹細胞ダイナミクス解析分野
西田 知恵美

 新学術領域「がん支援」平成26年度国際交流海外派遣より海外派遣の助成を受け、平成26年12月5日から9日の5日間、サンフランシスコのMoscone centerで開催された56th American Society of Hematologyに参加してまいりました。American Society of Hematologyは2万人を超える参加者がおり、6日から9日にかけて、1000題を超える口頭発表や3000題を超えるポスター発表が行われる血液関連では世界最大規模の学会です。

 学会に先立った5日、また会期中の6日から8日にはtrainee向けのセッションが開催されました。効果的なプレゼンについての講演は今更ながら気付かされるポイントも多く、会場内の参加者も熱心に聞き入り質疑応答も活発に行われたことはとても印象的でした。またランチョンセミナーとして開催されたcareer development sessionではpost-doctoral fellowからprincipal investigatorへの転換期についてや研究チームの育成法についての講演があり、この学会が若手育成に力を入れていることが伝わってきました。

 私は正常造血における微小環境について研究しており、今回は血管内皮細胞由来の分泌因子であるEpidermal growth factor-like domain 7(EGFL7)の機能について発表しました。造血幹細胞は骨髄内のニッチと呼ばれる特殊な微小環境によって維持されており、ニッチには骨芽細胞性ニッチと血管性ニッチの存在が示唆されています。骨芽細胞性ニッチは造血幹細胞を静止状態で維持することで幹細胞の未分化性を維持している一方、血管性ニッチは幹細胞の維持だけでなく、増殖や分化、動員などに関与していることが示唆されています。血管内皮細胞はニッチを構成する細胞の一つであることが示されている一方で、どのようにして造血幹細胞の維持や分化を制御しているのかは解明されておりません。今回、私たちはEGFL7が造血幹細胞上に発現しているβ3インテグリンに結合しAkt経路を活性化することで、造血幹細胞増殖や細胞周期促進を制御していること、つまりEGFL7はβ3インテグリン依存的に静止期造血幹細胞を活性化し、造血機構に関与していることを報告しました。会場には幹細胞と微小環境研究に携わる研究者が多く、討論や有意義なコメントをもらうことができました。

 造血幹細胞動態を制御する因子として、ドイツのグループからMatrilin-4が本学会で紹介されました。Matrilin-4は細胞外マトリクスタンパク質の一つで、長期骨髄再構築能をもつ造血幹細胞(LT-HSC)においてその遺伝子発現が顕著に高い因子です。IFN-αやLPSを投与すると造血幹細胞におけるMatrilin-4の発現が遺伝子レベルおよびタンパク質レベルで増加すること、またMatrilin-4遺伝子欠損マウスを用いた骨髄移植実験やマウスから採取した骨髄細胞を用いたコロニーアッセイから、Matrilin-4を欠損すると造血幹細胞の増殖が促進されることが示され、Matrilin-4は造血幹細胞ニッチの重要な構成因子の一つであり造血幹細胞のストレス応答制御をしていることが明らかにされました。造血幹細胞ニッチについては未だその実態全貌が解明されたとは言えない段階ですが、本学会を通じて少しずつその機構が明らかにされていくことが期待されました。

最後になりますが、このような貴重な機会を与えていただきました文部科学省新学術領域「がん支援」国際交流委員会の諸先生方、また事務手続きで大変お世話になりました総括支援活動班の平野様に深く御礼申し上げます。