概要・活動内容

国際交流委員会

AACR conference RAS Oncogenes参加、UCSF Diabetes Center訪問報告

東京大学医学部消化器内科
宮林 弘至

はじめに

この度、新学術領域研究「がん研究分野の特性等を踏まえた支援活動」国際交流委員会海外派遣事業から助成をいただき、2014年2月24日から27日まで米国オーランドで開催されたAACR conference RAS Oncogenes :From Biology to Therapyに参加し、その後2月28日にUCSF Diabetes Centerを訪問する機会をいただきました。RAS蛋白は細胞内シグナル伝達で重要な役割を果たす分子で、RASの異常はヒトの癌の30%に存在すると報告されており、RASを標的とした創薬・研究に努力が重ねられてきましたが、未だに”undruggable”な分子とされています。米国National Cancer Instituteは2013年にRAS異常を有する癌腫を克服すべくRAS projectを立ち上げ、RAS研究が再興してきています。今回AACR conference RAS Oncogenesに参加し、私の最近の膵癌(KRAS変異を高率に有する)研究の成果を発表するとともに、海外のRAS専門家たちの最先端の知識を吸収することができました。また今後検討している海外留学先の候補としている研究室の教授と面談することができ有意義な活動となりました。


AACR conference RAS Oncogenesに参加して

この学会に参加して興味深いと思ったのはRAS Projectの立ち上げに際し、本学会でRAS interactomeというRAS関連研究のコミュニティを築く概念が提唱されたことです。学会参加者があらかじめアンケートに答えた内容をSage Bionetworksが解析し、その結果が本会で発表されました。質問内容は参加者の専門分野、2013-2014年におけるRAS/MAPKに関する研究で最も発展した分野、研究され尽くした分野、これから発展が必要な分野などです。最もexcitingで発展した分野はdrugs。pathway regulation、pathway metabolismと続きます。また論文で最もexcitingとされたのは2013年Nature誌に掲載されたOstrem JM等のK-Ras(G12C) inhibitors allosterically control GTP affinity and effector interactionsでした。研究され尽くした分野はKras synthetic lethality、pathway regulation、Braf inhibitor resistanceなど、これから発展が必要な分野はfunction and system biology、drugs、pathway regulationでした。私の研究テーマは膵癌治療であるため、その興味も狭い分野に偏りがちですが、若手研究者からいわゆる大御所まで多数のRAS研究者が参加したこの学会でのこういった解析により、RAS研究の現在の状況が把握でき、今後向かうべき方向性が示されたようで感銘を受けました。
私はこれまで膵特異的活性型KRAS発現+Tgf-β2型受容体ノックアウトマウスを用いて、膵癌におけるゲムシタビンとEGFR阻害剤であるエルロチニブの併用効果のメカニズム解析を研究しており、その成果をポスター発表しました。膵癌では活性型KRAS変異が高率であるため、その上流であるEGFRを阻害するエルロチニブとゲムシタビンとの併用が臨床試験で効果を示したメカニズムが解明されていませんでした。私は活性型KRAS変異を有する膵癌細胞に対して細胞傷害性薬剤であるゲムシタビンを投与すると、EGFRリガンドの発現が誘導され、ERBB2が活性化することを見出し、エルロチニブがその反応性のEGFR/MAPKシグナル活性化を抑制することで相乗効果があることを示しました。しかし、エルロチニブの効果は限定的であり、細胞内シグナル伝達のフィードバックが複雑であることから、より効果的な分子標的治療が必要と考えられます。本学会で盛んに検討されているRASを標的とした薬剤の開発が期待されるとともに、KRASのpathway regulationの解明が不可欠です。本学会のオーガナイザーの一人のDafna Bar-Sagiが最近の知見で、野生型のHRASとNRASは、活性型KRAS変異を有する細胞の細胞分裂に必要で、野生型HRASとNRASを抑制するとChk1が抑制されることでG2チェックポイントが活性化されずにDNAダメージが誘導され、DNA傷害性の抗癌剤に感受性を示すという発表がなされ、RAS蛋白は活性型変異が発癌に働きますが、野生型RASが変異型RASと相互作用することがわかり注目を集めました。
また、本学会のオーガナイザーで、NCIのRAS ProjectのリーダーでもあるFrank McCormick(UCSF Helen Diller Family Comprehensive Cancer Center , San Francisco, CA)、遺伝子改変による膵特異的発癌マウスモデルを用いた前臨床的検討で最先端を行くDavid Tuveson(Cold Spring Harbor Laboratory , Cold Spring Harbor, NY)と面談を行うことができました。


UCSF Diabetes Centerを訪問して

AACR conferenceの後、サンフランシスコへ移動しポストドクトラルフェローのインタビューを受けるためにUCSF Diabetes Center のMatthias Hebrok研究室を訪問しました。私自身初の海外インタビューではありましたが定番の流れのようで、午前中はHebrok教授の面談と自分の研究内容の発表、その後ラボメンバー数人とランチ、午後にラボメンバーと一人ずつ研究内容・生活について話をし、最後に教授と面談という流れでした。膵β細胞の機能解析、膵腺房細胞の脱分化、膵発癌のメカニズム解析の3つのグループから構成され、ポスドクがそれぞれプロジェクトを担い主体的に遂行するスタイルで、その研究内容も非常にクオリティが高く、興味深いものばかりで衝撃を受けました。ヒト膵癌では大腸癌同様に、多段階発癌が提唱されKRASの変異に始まり、INK4A、TP53、SMAD4と遺伝子変異が蓄積して前癌病変のPanINがPanIN-1A/B⇒PanIN-2⇒PanIN-3と進行し腺癌になるという考えが一般的となっている一方で、もう一つの膵癌の前癌病変としてIPMN(膵管内乳頭状粘液性腫瘍)があり、IPMN由来膵癌はPanIN由来膵癌と性質の異なる膵癌と考えられていますが、この2つの違いについての解析は十分なされていませんでした。また、膵前駆細胞から外分泌組織として膵管、腺房細胞が分化するわけですが、膵癌で最も多い組織型の管状腺癌が、分化した膵管から発生するのみでなく、一旦分化した腺房細胞が炎症などにより脱分化して膵管様構造に変性し(acinar to ductal metaplasia)、そこから管状腺癌が発生するという考えも定説となってきています。それに加えHebrok研究室では、Brg1というクロマチンリモデリングに関わる分子の膵特異的ノックアウトがIPMN由来膵癌の組織と類似するモデルであり、Brg1欠損により腺房細胞から膵管様構造変性を介した発癌が抑制され、膵管由来に発生したIPMNから発癌するという知見を発表しています。膵癌発生のメカニズムを解析した研究ですが、基盤に膵組織の分化・脱分化、幹細胞からの発生などの知識があり、膵疾患について総合的に研究できる環境でした。


おわりに

今回の海外派遣の主な目的は今後検討している海外留学先候補の教授と面談することであり、初インタビューを経験したりなど、貴重な体験をすることができました。オーランド(ディズニーワールド内)では観光する気持ちの余裕もなかったようですが、サンフランシスコではUCSF留学中の知人にDiabetes CenterやHelen Diller Family Comprehensive Cancer Centerなどを案内していただき、壮大なスケールの研究センターに圧倒されるとともに、今後の留学への期待で胸が膨らみました。このような大変貴重な機会を与えていただいた新学術領域研究「がん研究分野の特性等を踏まえた支援活動」国際交流委員会の諸先生方、ならびに、事務手続等で大変お世話になりました総括支援班、平野様に心より感謝申し上げます。