概要・活動内容

国際交流委員会

Stem Cells AustraliaとAustralian Institute for Bioengineering and Nanotechnologyを訪問して

京都大学物質-細胞統合システム拠点
長谷川 光一

はじめに

 この度、新学術領域研究「がん研究分野の特性等を踏まえた支援活動」国際交流委員会海外派遣からの助成を頂き、平成26年2月10日から14日にかけて、オーストラリア・メルボルンのStem Cells Australiaおよびメルボルン大学医学部Department of Anatomy and Neuroscience、ブリスベンのクイーンズランド大学Australian Institute for Bioengineering and Nanotechnology (AIBN)およびStemformaticsを訪問しました。それぞれの施設で、いくつかの研究室を訪問し、共同研究のデータの突き合わせと今後の展開、新規の共同研究の開始、私の専門である幹細胞研究の最新技術や動向などについて、情報交換や相談、議論を行いました。これらの内容は、未発表な内容が殆どであったため、本稿では詳細な内容の記載は控えさせて頂きますが、共同研究のテーマと、それぞれの研究施設の特色について紹介いたします。


共同研究のテーマ「膵がんマーカーの探索」

 膵がんは沈黙の癌と呼ばれ、自覚症状が乏しく早期発見が困難なため、発見後5年での生存率は約5%と著しく低いと報告されています。現在まで、膵がんにおける診断マーカーにCA19-9がありますが、特異性が低く、血液型にも左右されるため、診断や標的医療を可能とする新規マーカーが求められています。  私どもの研究室では、メルボルン大学のMartin F Pera教授の研究室と共同で、膵臓の前駆細胞と膵がん細胞が非常に近い特徴を持つことを利用し、ヒト多能性幹細胞(ES細胞やiPS細胞)を利用した新規膵がんマーカーの探索を行なってきました。具体的には、ヒト多能性幹細胞を膵臓に向けて分化誘導し、その分化過程で得られる膵臓の前駆細胞の細胞表面を認識するモノクローナル抗体の作製を行いました。この方法で、膵がんで陽性細胞数が著しく上昇する新規マーカーGCTM-5を発見することができました(文献1)。GCTM-5は、膵臓の病理切片では使用することはできますが、肝炎等の細胞も認識し、CAC19-9同様、抗原の一部が細胞外に解離するため、初期診断や標的医療に用いるには限界がありました。そこで現在、私どもは、この抗原を含む複合体および抗原陽性細胞の解析を行い、診断や標的医療に応用可能な新規マーカーの同定を行っています。今回の渡航では、この共同研究のデータおよび情報交換、今後の展開について議論するため、以下の共同研究者・施設を訪問しました。


訪問先1: Stem Cells Australiaとメルボルン大学

 Stem Cells Australiaは、オーストラリア政府が2011年に新しくスタートさせた幹細胞研究のイニシアチブで、胚細胞腫瘍と幹細胞研究の第一人者であるメルボルン大学医学部のMartin F Pera教授がリーダーを努め、4大学と4研究所から総勢37人の研究者が所属しています (http://www.stemcellsaustralia.edu.au/)。 今回の訪問では、メルボルン大学Melbourne Brain Centreに設置されたStem Cells Australia本部と医学部のPera研究室を訪ねました。そこで、Pera教授とAlison Farley研究員とお会いし、私どもが行ったGCTM-5陽性細胞と陰性細胞のRNA deep sequencingのデータと、Pera研究室が行ったGCTM-5抗原のGlyco arrayデータの突き合わせを行い、また臨床診断応用の結果等の情報交換、および今後の方針について議論を行いました。また、Stem Cells Australiaおよびメルボルン大学の他の研究者、Mirella Dottori教授やMegan Munsie教授、Anna Michalska博士らとも共同研究の相談や、情報交換等を行いました。


訪問先2: Australian Institute for Bioengineering and Nanotechnology (AIBN)とStemformatics

 AIBNはクイーンズランド州が2005年にクイーンズランド大学に設置しスタートさせた異分野融合研究所で、PIのほとんどが若い研究者で成り立っており、非常に活気あふれる研究所です (http://www.aibn.uq.edu.au/)。医学分野では、再生医療やデバイス開発、診断や標的医療へ向けた研究が精力的に行われています。Stemformaticsは、異なるプラットフォームを用いたバイオインフォマティクスのデータを複合して解析する施設で、AIBNのChristine Wells教授が率いておられます (http://www.stemformatics.org/)。  今回、StemformaticsのWells教授とRowland Mosbergen研究員、Othmar Korn研究員、および私どもの研究室からStemformaticsに派遣している安田晋也研究員らとGCTM-5に関するデータの複合解析について、共同研究の依頼、解析方針、統計方法、解析結果の表現方法について、詳しく議論しました。また、AIBNのJustin Cooper-White教授やErnst Wolvetang教授ともお会いし、情報交換を行い、共同研究の可能性について議論しました。


写真1.緑と水に囲まれたクイーンズランド大学AIBN

写真1.緑と水に囲まれたクイーンズランド大学AIBN

写真2.Stem Cells Australiaが置かれているモダンな Melbourne Brain Centre

写真2.Stem Cells Australiaが置かれているモダンな Melbourne Brain Centre

おわりに

 今回の訪問では、Eメール等のやり取りでは難しい共同研究の打合せや、データの突き合わせ、今後の方針等について直接議論することができ、新規の共同研究も開始でき、非常に有意義なものとなりました。バイオインフォマティクス統計解析について新たな知見も得ることが出来ました。また、様々な研究者と情報交換し、交流を深めることが出来ました。このような機会をお与え頂きました新学術領域研究「がん研究分野の特性等を踏まえた支援活動」国際交流委員会の皆様に心から感謝申し上げます。


参考文献
1. Stamp LA, Braxton DR, Wu J, Akopian V, Hasegawa K, Chandrasoma PT, Hawes SM, McLean C, Petrovic LM, Wang K, Pera MF “The GCTM-5 epitope associated with the Mucin-like glycoprotein FCGBP marks progenitor cells in tissues of endodermal origin” Stem Cells, 2012, 30(9) 1999-2009