概要・活動内容

国際交流委員会

Keystone Symposia on Molecular and Cellular Biology “Cancer Epigenetics” 参加報告

愛知県がんセンター研究所 ゲノム制御研究部
勝島 啓佑

はじめに

 この度、平成25年度新学術領域研究「がん支援」国際交流委員会の海外派遣事業での助成により、Keystone Symposia on Molecular and Cellular Biology “Cancer Epigenetics”(平成26年2月4日〜2月10日;アメリカ合衆国 ニューメキシコ州・サンタフェ)に参加させて頂いた。この会議はSharon Y.R. Dent (University of Texas MD Anderson Cancer Center), Jean-Pierre Issa (Temple University School of Medicine), Peter A. Jones (University of Southern California) によってオーガナイズされ、がんエピゲノム分野における最新の知見やその臨床応用における新たな試みについて議論された。またこの会議はRichard A. Young (Whitehead Institute for Biomedical Research), Robert G. Roeder (Rockefeller University), Joanna Wysocka (Stanford University School of Medicine) によってオーガナイズされたKeystone Symposia on Molecular and Cellular Biology “Transcriptional Regulation”との合同会議にて開催され、転写制御機構における最先端の研究を聴講できるまたとない機会であった。私自身も脳腫瘍幹細胞の分化を制御する長鎖非翻訳RNAに関する研究 (Functional Roles of Long Non-cording RNA in Epigenetic Reprogramming of Glioma Stem Cells)と題し、ポスターセッションにおいて発表の機会を頂いた。以下、会議でとりあげられた代表的な課題について概説したい。


図1. 会議が開催されたサンタフェの街並み。

図1. 会議が開催されたサンタフェの街並み。

 がんにおいて発がんや進展に関わる個々の遺伝子ごとの発現制御機構については多数報告されている。しかしながら、どのようして遺伝子ごとに発現が決定されているのかその選択性や制御機構についての詳細は未だに不明な点が多い。またこれらの遺伝子群がいかにして協調的に制御されているのかということについてもわかっていない。本会議の冒頭、Keynote Addressでは、James E. Bradner (Dana-Farber Cancer Institute)が”Chemical Modulation of Chromatin Structure and Function”というタイトルで講演を行った。ブロモドメインタンパク質であるBRD4が複数の転写因子と協調し、特定のエンハンサー領域に結合することにより、発がんやがん細胞の分化に関わる一連の遺伝子群の発現を行進するという内容であった。さらにこのタンパク質のブロモドメインを標的とした阻害剤(JQ1)はBRD4のエンハンサー領域への結合を阻害することで標的となる遺伝子群の発現を抑制すること、in vivoの系においてJQ1が抗腫瘍効果を示すことなどが発表された。James Bradnerによる講演はがん細胞におけるエンハンサーを介した遺伝子発現制御の重要性を示すと同時に、遺伝子ごとの発現がいかにして協調的に制御されているのかという疑問に対しての答えを明快に示しているようでもあった。本会議において、エンハンサー機能に関わる研究が多数報告されていたのが印象的であった。Peggy J. Farnham (University of Southern California) はSNP変異によって消失または構築されるエンハンサー領域の存在を見出し、大腸がんをモデルにしその特徴や機能性について報告した。また、Richard A. YoungはES細胞においてOct4, Sox2, Nanogなど複数の転写因子が協調し構築されるエンハンサーを”Super-enhancer”と称し、Super-enhancerの機能やES細胞の分化における役割などを報告した。今後これらエンハンサーを介した協調的な遺伝子発現制御のさらなる詳細が解明されることを期待する。


 ここで、私の行っている研究分野との関連で一つ紹介させていただきたい。近年、非翻訳RNAの1つであるlong non-coding RNA (lncRNA)は種々のタンパク質と結合し、遺伝子発現を制御することが報告されている。本会議との合同会議として開催されたKeystone Symposia on Molecular and Cellular Biology “Transcriptional Regulation”のセッションにおいて、lncRNA研究の第一人者であるHoward Y. Chang (Stanford University), John L. Rinn (Harvard University) による報告は私にとって大変興味深いものであった。Howard Y. ChangはlncRNAの結合タンパクであるWDR5 (ヒストンメチル化酵素複合体の構成因子) におけるlncRNAの結合ドメインとその機能解析について報告を行い、WDR5に結合するlncRNAがES細胞の未分化性の維持に重要な役割を果たすことを明らかにした。また講演の後半ではSNP変異によるlncRNAの二次構造の変化について報告を行った。これまでlncRNAとタンパク質との結合にはlncRNAの二次構造が重要であることが知られていたが、Howard Y. ChangらのグループはヒトlncRNA上に存在するすべてのSNPを抽出し、各SNPがlncRNAの二次構造を変化させるものか否かについて網羅的な解析を報告した。さらにlncRNAの二次構造を変化させるSNPを”Ribo SNich”と称し、Ribo SNichの構成や種間における保存性について述べられた。Howard Y. Changの講演に続いて、John L. Rinnによる講演が行われた。彼らのグループは筋芽細胞を用いた筋分化をモデルにし、一細胞ごとのlncRNAの発現を経時的に解析した内容を報告した。一つの筋芽細胞内において時間の経過とともに刻々と変化する各lncRNAの発現をRNA-FISHの写真を交えて詳細に説明した。 これらlncRNAに関するセッションと同日に、私自身も“Functional Roles of Long Non-cording RNA in Epigenetic Reprogramming of Glioma Stem Cells”という内容でポスター発表を行った。幸運なことにポスターセッション後にJohn L. Rinnと直接ディスカッションを行うことができた。自身の研究に関する多くのコメントや助言を頂き、非常に有益であった。とりわけ、John L. Rinnから” Your study is so cool, I want you to advance detailed analysis. “との言葉を受けられたことは、大変ありがたい刺激となった。


図2. ポスターセッションの様子。

図2. ポスターセッションの様子。

おわりに

 サンタフェを訪れたのは、今回が初めてであった。こぢんまりとした洒落た街の雰囲気と近隣にあるスキー場の大自然とのバランスが素晴らしく絶妙に美しかった。また芸術の街としても有名であり、宿泊したホテルから会場までは徒歩5分程の距離であったが、その道のりには美術館やアートギャラリーが点在しており、街中にはいたるところに彫刻やオブジェがあった。予定の空いている午後の時間帯を利用して、サンタフェの街中を散策したり、アートギャラリーをのぞいたりした。会場から一歩外に出ると、このような非日常的な空間が目の前にあるというのは、日本では中々得がたい体験であった。土色で統一された建物と現代アートが立ち並ぶサンタフェという美しい街の中で、毎晩遅くまで討論が続いた。この会議に参加し、がんエピゲノム分野における最先端の研究者や若手研究者、海外で活躍している日本人研究者との交流ができたことは、国際的な共同研究にもつながる可能性のある素晴らしい経験になったと思う。


 最後になりましたが、このような大変貴重な機会を与えていただいた文部科学省新学術領域研究「がん支援」国際交流委員会の諸先生方、ならびに、事務手続等で大変お世話になりました総括支援班、平野様に心より感謝申し上げます。今後も、このような支援活動が維持、発展されることを強く希望いたします。


図3. 彫刻が立ち並ぶサンタフェの街中の様子。

図3. 彫刻が立ち並ぶサンタフェの街中の様子。