概要・活動内容

国際交流委員会

The United States and Canadian Academy of Pathology 102th Annual Meetingに参加して

東京大学医学部附属病院病理部
前田 大地

はじめに

米国カナダ病理学会 The United States and Canadian Academy of Pathology (通称USCAP)は外科病理学の世界において中心的な役割を果たしている学会で、そのannual meetingは世界最大規模を誇る。今回、私はがん特定領域研究・国際交流委員会海外派遣事業の助成を受け、2013年3月3日から3月8日にかけて米国メリーランド州ボルチモアで開催された第102回のUSCAP annual meetingに参加した。私が指導している大学院生Sultan Ahmad Halimiが同行した。彼はアフガニスタンからの(日本)国費留学生で、アフガニスタン初の外科病理医になるべく我々の施設でトレーニングと研究活動を継続してきた。今回は彼にとって初めてのアメリカ合衆国滞在で、学術面のみならず、文化、社会の成り立ちの違いを知って多いに刺激を受けたようである。

USCAPで発表される内容は外科病理、すなわち「病理診断に役に立つ」という観点に立脚したものに特化していると言っても過言ではない。各臓器の主要な腫瘍に関しては、それらに特異的に発現している蛋白に関する解析や、近年明らかになった分子生物学的異常の検出(特にホルマリン固定パラフィン包埋された検体における応用)に関する研究が多くを占める。例えば、ここ1、2年で主要な癌関連遺伝子の一つであるBRAFの変異を市販抗体を用いて免疫組織化学的に検出する方法が確立されたが、今回の学会ではこの方法を用いた研究成果があらゆる臓器の腫瘍に関して発表されていた。ここ数年の間に様々な癌種で変異の存在が指摘されているクロマチンリモデリング遺伝子ARID1Aに関しても、免疫組織化学的手法を用いた研究が多数報告されていたのが印象的であった。

また、主要な腫瘍群に関する研究とは別に「稀な腫瘍」についての報告を多数聞くことができるのもUSCAPの醍醐味である。といのも、我々病理診断医の日々は、稀な腫瘍、自分の知らない腫瘍との遭遇にビクビク、ワクワクしながら過ごすものだからである。幸せなことに、今回の学会でもそれまで自分が詳しく知らなかった病変をいくつか知るようになって帰ることができた。学会場ではこれらの病変の組織像がスライドで提示されたので、目に焼き付けてきた。これらの疾患概念について以下に概説する。


Mammary Analogue Secretory Carcinoma (MASC) of the Salivary Glands

Secretory carcinoma(分泌癌)は乳癌の稀な亜型として知られている。2010年にチェコのSkalovaらが「乳腺の分泌癌と同様の組織像を呈する唾液腺腫瘍」として提唱したものがMASCである。 唾液腺腫瘍のほとんどは多形腺腫、ワルチン腫瘍といった良性腫瘍で、唾液腺癌自体が極めて稀である。粘表皮癌(mucoepidermoid carcinoma)、腺様嚢胞癌(adenoid cystic carcinoma)、腺房細胞癌(acinic cell carcinoma)、唾液腺導管癌(salivary duct carcinoma)といったものが典型的な組織像を呈している場合であれば一般病理医でも正確な診断を下すことが可能だが、これらの腫瘍は非典型的な組織像を呈することが多く、唾液腺病理を専門とする病理医へのコンサルテーションが必要となることも少なくない。
MASCは上記の組織亜型より圧倒的に頻度が少ないと考えられているが、疾患概念が提唱されるまでは腺房細胞癌や低悪性度嚢胞腺癌と診断されていた可能性が高いので、正確な頻度は今後より明らかになってくるだろう。MASCの平均発症年齢は40歳台で、男女比は有意差がない。そのほとんどが耳下腺に生じるとされる。組織学的には分葉状を呈する腫瘍で、腫瘍細胞が微小嚢胞状、管腔状になって増殖する。腔の中に好酸性で均一、泡沫状の物質(分泌物)が認められるのが特徴である。腫瘍細胞は免疫組織化学的にビメンチン、S-100陽性を示す。なお、分子生物学的解析によりMASCの大多数にt(12;15) (p13;q25) ETV6-NTRK3 translocationが認められることが明らかになっている。このtranslocationは他の唾液腺腫瘍に見られないことから、MASCは既存の唾液腺腫瘍とは異なる新たな疾患概念であると考えられるに至った。この腫瘍は再発、転移をきたして死に至りうる病気であり、その正確な診断は非常に重要だと考えられる。


Angiofibroma of Soft Tissue

Angiofibroma of soft tissueはFletcherらが37症例の観察をもとに2012年に提唱した軟部腫瘍の新疾患概念である。軟部の紡錘形細胞からなる腫瘍の良悪の判定はしばしば困難だが、本疾患は「肉腫と明確に区別する必要がある良性腫瘍の一群」として提唱されている。
この腫瘍の平均発症年齢は40歳代とされる。男女比は1:2程度。軟部の緩徐増大傾向を示す無痛性腫瘤として見つかることが多い。下肢に生じる症例が最も多い。肉眼的には境界明瞭な腫瘤で、症例間の組織像のばらつきはほとんどない。組織学的には線維性間質あるいは粘液種様間質を背景とする異型性の乏しい比較的均一な紡錘形細胞の増殖と血管の著明な増生に特徴づけられる。増生している血管は壁の薄い小型のものが多く、分岐を示すものが少なからず認められる。また、中型の拡張した血管も散在性に認められる。核分裂像は少数見られるのみである。免疫組織化学的に腫瘍の約半数が少なくとも一部にEMA陽性となることが報告されている。ほとんどの症例は局所切除で根治に至り、再発は稀とされる。死に至った症例の報告はない。


Pediatric Primitive Round Cell Sarcoma with CIC-DUX4 Fusion

小児に生じる肉腫の中には分化傾向のはっきりしない一群があり、そのような症例はundifferentiated sarcoma (未分化肉腫)とされてきた。近年、小児のundifferentiated sarcomaの中でsmall round cellの増殖を主体とするものに一定の頻度でCIC-DUX4 fusionが検出されることが明らかとなった。すなわち、小児のsmall round cell sarcomaにはEWSR1のrearrangementを示す群とは別にCICのrearrangementを示す群が存在するのである。今回の学会ではCIC-DUX4 fusionを有する肉腫の症例提示があった。


最後に

今回の渡米に際して、私はがん研究の特性等をふまえた支援活動・国際交流委員会海外派遣事業の助成を受けた。自分や自分が指導している大学院生の研究内容を発表できたことが一つの収穫である。それに加え、日常の病理診断、癌研究に役に立つ知識を得られたことに強い喜びを感じている。今後、より社会還元性の高い仕事ができるように努力をしていきたい。