概要・活動内容

国際交流委員会

平成24年度国際交流海外派遣事業報告書

鹿児島大学 産学官連携推進センター
王 宇清


はじめに

平成24年度新学術領域研究「がん研究分野の特性等を踏まえた支援活動」国際交流海外派遣事業に助成を頂き、平成25年2月2日から15日まで上海第二軍医大学微生物学教研室Qi Zhongtian教授を訪問しました。現在私は、癌幹細胞の生物性や癌幹細胞に標的治療する増殖制御型アデノウイルスベクター開発の研究をしております。癌幹細胞とは転移や腫瘍形成能が高く、また様々な抗がん剤や放射線療法に抵抗性を示すため癌再発の原因であり、つまり癌幹細胞こそが癌が難治性の根本原因であると近年推察されています。しかし、癌幹細胞を同定、標的治療する技術は未だ開発されていません。治療抵抗性の原因となる癌幹細胞を標的として、遺伝子治療に用いる増殖制御型アデノウイルスベクターを開発し、癌幹細胞の同定・診断・治療に応用できるようにと期待しております。今回の訪問では、海外のウイルス研究専門家、癌研究専門家とウイルスベクターの作製、癌の遺伝子治療について様々なお話ができて、私にとって、大変有意な経験を与えて頂きました。


アデノウイルスベクターを用いて癌の遺伝子治療について

癌は、日本や先進諸国における三大死因で年間死亡数も依然増加しており、革新的な癌治療法の開発は重要な課題です。その有力候補の一つの治療法は遺伝子治療であり、1991年の最初の癌患者への臨床試験以来、現在まで癌だけでも960の臨床プロトコールが世界中で認可され、多くの癌患者へ臨床試験がなされております。1990年代前半に開発されたin vivo遺伝子治療に主なベクターは非増殖型アデノウイルスベクターであり、その結果、安全性はよく確認されたが、治療効果が不十分で、癌再発の可能性が懸念された。その不十分だった主因の一つは、物理的に全ての癌細胞に遺伝子導入する事が不可能であり、ウイルスベクター液の未到達の遺伝子未導入細胞の再増大、再発が引き起こします。そこで、従来の非増殖型アデノウイルスベクターは遺伝子「未」導入細胞からの癌再発を克服できないため、癌特異的にウイルスを増殖させてウイルス蛋白で癌を殺すCRA(conditionally replicating adenovirus, 癌優位増殖型アデノウイルス)が世界の研究の主流となっております。しかし既存のCRAは「単一因子」での不十分な癌特異化、治療遺伝子が自由に搭載できない(ウイルス療法)、しかも標準化作製技術がないため、作製に時間がかかるなど、種種の問題がありました。今の研究室が開発した「多因子のウイルス増殖制御で精密に癌特異化」、「治療遺伝子を自由に搭載可能」(ウイルス療法と遺伝子治療の融合)、「ウイルスゲノムの性質も容易に変更可能」という高性能な新世代ベクターであるm-CRA(CRA with multiple tumor-specific factors)作製法は、「パーツ化→自由に組み合わせてウイルス作製」という初めての効率的標準化技術で、多種多様の高度m-CRAが迅速に作製できます1,2。この技術で開発したSurvivin反応性m-CRA(Surv.m-CRA)は強力な癌治療効果を示しました3


上海第二軍医大学微生物学教研室について

上海は世界中からの観光客を受け入れる国際都市として、学術上の国家的重点拠点も多数指定されています。中国政府は改革開放政策に合わせて基礎的な学術分野の振興にも力を注いできました。上海第二軍医大学は国家「211プロジェクト」の重点大学で、中国におけるトップクラスの肝臓外科を誇っています。三つの附属病院を持ち、長海病院、長征病院、東方肝胆外科病院肝癌治療に豊富な経験を持っています。今回の訪問では、アデノウイルス含まれて、多種類のウイルス研究特に肝炎ウイルス研究に豊富経験を持つ微生物学教研室主任であるQi Zhongtian教授と会談、情報交換することができました。アデノウイルスの遺伝子治療特に癌細胞と癌細胞への最新研究進展について詳細なお話をして下さいまして、とっても勉強になりました。癌細胞に対する感染効率と抗腫瘍効果を高めるため、血清5型アデノウイルスのファイバー改変及び癌幹細胞ニッチという微小環境にニッチ因子と間質分子を標的に治療するアデノウイルスの構築、増幅や精製などの見学することができて、とっても深い印象をつけました。訪問中、研究室の皆さんと自由な学術交流、情報交換することもできて、大変貴重な経験を得ることができました。中国の遺伝子治療の基礎研究と臨床試験は比較的に早い時期から行われているため、今回、医学研究に強大な実力を持つ第二軍医大学付属病院、復旦大学付属病院、上海市腫瘍研究所の見学も案内して頂きまして、益々発展している中国の医療現場を知ることができ、非常に参考になりました。


おわりに

今回の訪問は、ウイルスの専門家Qi Zhongtian教授と癌のアデノウイルス治療を専門としているの教授、研究者達と面談する機会を与えていただき、大変貴重な経験を得ることができまして、有意な国際交流になったことも深く感じました。今後、今回の訪問で得た貴重な情報や助言を今取り込み中の研究に生かして、共同研究を結ぶことも期待しております。最後に、この海外交流機会を与えてくださった「がん研究分野の特性等を踏まえた支援活動」国際交流委員会の皆様に心から感謝申し上げます。


写真1 第二軍医大学 微生物学教研室  写真2 復旦最学附属腫瘍医院

参考文献:

  1. Nagano, S., Oshika, H., Fujiwara, H., Komiya, S. & Kosai, K. An efficient construction of conditionally replicating adenoviruses that target tumor cells with multiple factors. Gene Ther 12, 1385-1393 (2005).
  2. Horikawa, Y., et al. Assessment of an altered E1B promoter on the specificity and potency of triple-regulated conditionally replicating adenoviruses: implications for the generation of ideal m-CRAs. Cancer gene therapy 18, 724-733 (2011).
  3. Kamizono, J., et al. Survivin-responsive conditionally replicating adenovirus exhibits cancer-specific and efficient viral replication. Cancer research 65, 5284-5291 (2005).