概要・活動内容

国際交流委員会

The 7th Korea-Japan Conference on Cellular Signaling for Young Scientists 2012 “Integrative Research of Signal Transduction in Biological Challenges” at UNIST に参加して

兵庫県立大学大学院生命理学研究科生体情報学II分野
八木澤 仁

はじめに

今回、平成23年度新学術領域研究「がん研究分野の特性等を踏まえた支援活動」国際交流委員会海外派遣の助成をいただき、平成24年2月16日から19日まで大韓民国ウルサン市にある国立ウルサン科学技術大學校 (Ulsan National Institute of Science and Technology: UNIST) で開催された「第7回日韓若手細胞シグナル会議」で発表の機会を得た。今回の訪問では、当該コンファレンスにおいて、平成22-24年度科学研究費基盤(C)で遂行中の研究テーマ「抗がん遺伝子産物START-GAP/DLCファミリータンパク質の細胞内局在機構」に関する演題 ”EGF regulates localization of START-GAP1/DLC1, a novel antioncogene product, at focal adhesions” を発表した。コンファレンスの主催者であり、韓国National ScholarのSuh Pann-Ghill教授とは、START-GAP/DLCファミリータンパク質の結合タンパク質の探索やリン酸化部位の解析で共同研究を行っている。そこで今回の訪問にともない、サンプルの交換ならびに今後の研究計画の打ち合わせを行った。その結果、UNISTの若手構造生物学者であるLee Changwook博士を韓国側のリーダーとする日本学術振興会「平成24年度二国間交流事業共同研究(日韓)」に応募することで合意を得、2月下旬に応募を行い、現在、審査結果を待っているところである。これらの機会は、上記研究のさらなる発展を望む私にとって非常に有意義なものであり、感謝したい。

がん研究におけるSTART-GAP/DLCファミリータンパク

START-GAP1/DLC1 (あるいはp122RhoGAP) は細胞内イノシトールリン脂質 (PI) 信号伝達系の要の酵素の一つであるPLCδ1の活性を亢進するRhoGAPとして本間(現 福島県立医科大学)らによって最初にクローニングされたタンパク質である (Homma and Emori: EMBO J 1995) 。START-GAP1/DLC1は、STARTドメインという、おそらくコレステロールに結合すると推定されるドメインを持つGAP (GTPase activating protein) であることが特徴である。私達はこれまでに、ある種の細胞ではSTART-GAP1/DLC1がカベオラに局在し、膜輸送を調節していること、哺乳動物には3番目のアイソフォームであるSTART-GAP3/DLC3が存在すること等を明らかにした。START-GAP/DLCファミリーは低分子量Gタンパク質RhoとCdc42を抑制するので、細胞骨格系とPI/Ca2+信号系の両者を制御する。ヒトSTART-GAP1/DLC1はがん抑制遺伝子産物であり、その欠失が多種類のがんの発症機構と密接に関わっていることが判明しつつある。ちなみにDLCというのはDeleted in Liver Cancer という、がん研究者による命名からくる略称である。我々は、START-GAP1/DLC1が運動や形態制御の要である接着斑にそのN端領域を介して局在化することを初めて見いだし、その抗がん作用の分子機構を解明しつつある(詳細に関しては「がん研究分野の特性等を踏まえた支援活動」ホームページ研究紹介等を参照していただきたい)。


国立ウルサン科学技術大學校 (UNIST) について

UNISTは韓国南東部、日本海(東海)に面したウルサン広域市に2009年3月に設立された新しい科学技術大学院および大学である。ちなみにウルサン広域市は、古くは捕鯨で有名であるが、現在では韓国内で最もGDPの高い都市であり、ヒュンデ(現代)重工業やヒュンデ自動車の工場があり、また、SK Energy社の世界最大の石油備蓄基地があることでも有名である。大学院はBioengineeringやBiomedical Scienceなど24の専攻からなり、そのいずれにも、韓国のトップクラスの科学者がファカルティーメンバーとして在籍している。前述のSuh教授はBiomedical Scienceに所属しており、この専攻がもつ4つの基幹研究施設:State-of-Art Animal Research Center, Olympus Biomed Imaging Center, Stem Cell Research Center, Cancer Research Centerのうち、主にOlympus Biomed Imaging Centerの運営を担っている。新しい国立科学技術大学であるだけに、その設備はすばらしく、また、研究稼働資金にも恵まれているとのことであった。


「日韓若手のための細胞シグナル会議」について

Japan-Korea Conference on Cellular Signaling for Young Scientistsは日韓の若手研究者の研究交流を目的に2002年以来、今回を含め、現在までに7回、両国で交互に開催されているコンファレンスである。私はその組織委員の任を、先にあげたSuh Pann-Ghill教授、Ryu Sung Ho ポハン工科大學校 (POSTECH) 教授、平田 雅人 九州大学教授とともに第1回から担っているとともに、毎回、私と一緒に研究を行っている大学院生とともに研究成果を発表してきた。このコンファレンスの特徴は、主に若手准教授の年齢以下の研究者(ポスドク、大学院生)が行う英語口演が、プログラムの中心となることである。この背景には、両国において外国経験の無い若手研究者が英語に対して持つコンプレックスを気にせずに交流するという目的がある。精神的には若手であるが年齢的にはシニアである私のような参加者は、ポスター発表や運営を担うことになっている。従って、今回の私の発表もポスターであった。念のために、Poster Discussionの時間には私のポスターには多くの来訪者があり、活発な議論があったことを付け加えておく。


今回のコンファレンスの参加者は、韓国人120名、日本人41名の計161名であった。2つのTutorial Lectures(1つは九州大学 藤木 幸夫 教授によるもの、もう1つはKim Eunjoon KAIST教授によるもの)のほかに、12のセッションからなり、さらには新進気鋭の若手研究者8名によるThe Rising Sun Symposiumも企画された。がん関係のセッションは3つあり、11名が口演発表を行った。ほかにもシグナル伝達でがん細胞を扱ったものは多かった。


さて、手前みそになって恐縮であるが、この「日韓若手のための細胞シグナル会議」、第8回を2013年11月7日(木)から9日(土)まで兵庫県姫路市の「イーグレ姫路」で開催する。新学術領域研究のメンバーの皆様にもふるってご参加いただきたい(詳細は yagisawa@sci.u-hyogo.ac.jp まで)。


以上、The 7th Korea-Japan Conference on Cellular Signaling for Young Scientists 2012への参加報告をさせて頂いた。私のSTART-GAP/DLCファミリーに関する研究はまだまだ基礎研究のレベルであり、今後、がんを標的とするプローブ開発研究など真に臨床医療に貢献できる成果を目指していくためには、これらのタンパク質の構造解析が喫緊の課題であると考えている。大型放射光装置SPring-8に私の所属(兵庫県)は専用ビームラインを持ち、また、ついこの3月に共用開始となったX線自由電子レーザー装置SACLAと私の研究室は3 kmしか離れていないという地の利をいかして、特徴ある「がん研究」に邁進していきたい。最後に、このような貴重な機会を与えていただいた文部科学省新学術領域研究「がん支援」国際交流委員会の方がたに心より感謝します。


図1.2. コンファレンスが開かれたUNISTの風景

図3. コンファレンス参加者の集合写真