概要・活動内容

国際交流委員会

米国ミネソタ州Mayo Clinicとミネソタ大学を訪問して

東京大学医科学研究所 治療ベクター開発室 中村貴史
(現 鳥取大学大学院 医学系研究科)

はじめに

今回、平成23年度新学術領域研究「がん研究分野の特性等を踏まえた支援活動」国際交流委員会海外派遣の助成をいただき、平成24年3月7日から9日まで米国・ミネソタ州Mayo ClinicのStephen J. Russell教授を、3月12日から13日まで同州ミネソタ大学の山本正人教授を訪問した。現在私は、マイクロRNAを指標にして癌細胞を標的破壊するワクシニアウイルスによる癌ウイルス療法の開発研究を進めている(詳細に関しては「がん研究分野の特性等を踏まえた支援活動」ホームページ研究紹介を参照していただきたい)。今回の訪問では、既にウイルス療法の患者における安全性を確認し、その効果を評価する段階へと進んでいるStephen J. Russell教授、および山本正人教授と情報交換をすることができた。又、既に本研究成果を基に共同研究を進めており、今後の展開に関して議論することもできた。これらの機会は、本研究成果を臨床応用へと直結させることを目指している私にとって、非常に有意義なものになったことは言うまでもない。

癌ウイルス療法

現在世界中において、生きたウイルスを利用して癌を治療する癌ウイルス療法に関する前臨床研究、及び臨床試験が積極的に行われている。これは、ウイルスが本来持っている癌細胞に感染後、癌組織内で増殖しながら死滅させるという性質(腫瘍溶解性)を利用する方法である。癌ウイルス療法は、1900年代のはじめよりはじまっていたが、その当時は正常細胞でも増殖能を保持した、つまり野生型に近いウイルスを投与していたので、安全性の観点より、なかなか新しい治療法としては定着するには難しかった。最近、遺伝子工学技術、ウイルスおよび癌の分子病態解析の発展により、ウイルスが元来持っている正常組織に対する病原性を排除し、ウイルスを癌細胞だけで増殖させることによって、癌を標的化することが可能になった。


Mayo ClinicのStephen J. Russell教授らは、本来は麻疹ワクチンとして利用するため弱毒化された麻疹ウイルスへヨウ化ナトリウム共輸送体(NIS)遺伝子を組込み、標的腫瘍細胞で発現させた。甲状腺疾患の検査や治療に使われている放射性ヨードを、その腫瘍細胞に取込ませることによって、非侵襲的に画像化、又は治療が可能になる。この改良によって、ウイルスの感染増殖に伴ってNIS遺伝子を発現する細胞を123Iで画像化し、腫瘍特異的かつ十分なウイルス増殖が確認できれば、癌ウイルス療法と131Iによる放射線治療とを併用する治療戦略が立てられる。Stephen J. Russell教授が属する分子医学部門では、より安全で効果的なウイルスを開発するための研究だけではなく、患者に投与することができるGMP(Good Manufacturing Practice) 品質のベクターを製造し、GLP(Good Laboratory Practice)での安全性試験を実施するなど、開発研究→前臨床研究→臨床試験のために全てが整備されており、まるで小さい製薬企業のようであった。特に今回は、特別にGMP製造工場内を実際に見学させてくれて非常に参考になった。


写真1 アメリカ最大規模の総合病院Mayo Clinic

ミネソタ大学の山本正人教授らは、本来人間に対して病原性を示す血清5型アデノウイルスを基に、腫瘍特異的プロモーターによってウイルス蛋白の発現を制御し、その病原性を抑え、癌細胞で選択的に複製する改良を加えていた。さらに、多くの癌細胞においてアデノウイルスレセプター(CAR)の発現が非常に低いか、又は発現がないため、CARに吸着する血清5型のウイルスファイバーを多くの癌細胞で高発現するCD46に吸着する血清3型のファイバーに置換することによって効率よくウイルスを癌細胞に感染させ、担癌マウスモデルにおいて強力な抗癌効果を実証していた。現在、GMP 品質のベクターを製造し、GLPでの安全性試験を実施しており、近い将来臨床試験を実施するために着々と準備を進めていた。又、前述したMayo Clinicでも同様であったが、山本正人教授が属する外科ではPhDを主体とする開発研究チームと、MDを主体とする臨床研究チームが連携してトランスレーショナルリサーチが進められていた。


写真2 アメリカ最大規模の総合大学University of Minnesota

おわりに

今回の訪問は、Stephen J. Russell教授、山本正人教授が、私にセミナーをする機会、癌ウイルス療法・遺伝子治療を専門としている十数人のPIと面談する機会、さらに夕食を共にする機会を与えていただき、非常に有意義な国際交流になったことは言うまでもない。今後は、ここで得た貴重な情報や助言、共同研究を活かして、本研究成果を臨床応用へと直結させることを目指していきたい。最後に、本訪問の機会を与えていただいた「がん研究分野の特性等を踏まえた支援活動」国際交流委員会の緒先生方に心から感謝申し上げます。