概要・活動内容

国際交流委員会

10th International Congress on Targeted Anticancer Therapiesに参加して

京都大学大学院薬学研究科 病態機能分析学分野
天滿 敬


今回私は運良く平成23年度新学術領域研究「がん支援」国際交流委員会からの助成を頂き、10th International Congress on Targeted Anticancer Therapies(TAT2012、2012年3月8-10日、オランダ・アムステルダム)に参加させて頂けることとなったので、その参加報告をさせて頂く。


現在私は新学術領域研究にて光イメージング法を用いたがんの質的診断を可能とする光イメージングプローブ開発に取り組んでいる。これは、対象とする生体機能分子を認識することではじめて光シグナルを発するようになる分子プローブの開発研究であることから、現在臨床で用いられている、または、臨床研究が進められている、あるいは、今後の臨床応用が期待される標的分子や分子標的治療薬・コンパニオン診断薬に関する最新情報をフォローすることは極めて重要である。しかしながらこれまでは基礎分野の関連学会しか参加できておらず、臨床あるいは臨床にごく近い学会に参加できていなかったことから、今回TAT2012に参加できたことは非常に貴重な経験であった。


写真1.学会受付。こぢんまりとした研究会の趣きであった。

写真2.学会会場。2階フロア、ガラスの向こうにポスター会場、企業ブースが透けて見える。

写真3.アムステルダムのコンサートホール(コンセルトヘボウ)。
ヨーロッパ屈指のロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団の本拠地ホールとして知られている。

TAT2012では種々の分子標的治療薬開発の現状が基礎研究からフェーズ3に至るまでの広範囲にわたって様々な角度から詳細に報告された。具体的には、PI3K、EGFR、PARP、VEGF、がん幹細胞など多くの分子を対象とした治療薬について単独での有効性評価のみならず組み合わせ使用に関しても多くの報告がなされ、時に高用量での試験時に認められる予期しない副作用・毒性、あるいは前臨床試験での有効性が臨床試験では認められなかったネガティブな結果についても活発な議論が繰り広げられた。基調講演ではどうして薬剤開発にこれほどまで多額の費用と長い時間がかかるのか、これを改善するにはどうすれば良いのかという視点から、アカデミアやジャーナルのあるべき姿勢に切り込まれ、ネガティブな結果も正直に発表しその知を共有すべきだと論じられた。私自身、アカデミアに所属するものとして学会・論文発表に限らず研究室内でのクローズな研究報告会においてさえポジティブな結果のみに注目して論じられることの多い(またそれが良しとされることの多い)風潮に疑問を覚えることもあり、大局的な視点からこのように論じられたことは将来のアカデミアのあるべき姿について考える良い機会となった。また、基礎実験で用いられるモデル動物とヒト病態との違いも様々な角度から論じられ(当たり前のことだがヒトとマウスは全く違う!)、単純な株化培養がん細胞の皮下移植モデルを用いた前臨床試験の結果をもって莫大なコスト・時間と患者・家族・医療スタッフなどの人的資源の必要な臨床試験フェーズに進めるのではなく、ヒト病態にもっと近い発がんモデル・ヒト腫瘍移植モデルなどのモデル動物を用いた前臨床試験を追加することにより更なる有効性を検証でき、医薬品のドロップアウト率を減らすことができることが示唆された。


これ以外にも様々なオーラル発表・ポスター発表が行われ、概して活発な議論が繰り広げられた。オーラル発表用の大部屋ひとつ、ポスター会場と企業の展示ブースのためのオープンスペースだけからなる参加前に漠然と感じていたよりも規模は小さな学会であったが、その分参加者たちの議論は密で何も分からずに一人で参加した私は雰囲気に圧倒されるばかりであった。また、完全に私の勉強不足で薬剤開発の基本的な用語等を理解していなかったことや、単純に英語力不足も大いにあり、議論や発表内容をフォローしきれたとは言えないことが多々あり、非常に残念であった。


以上、雑駁ではあったがTAT2012の参加報告をさせて頂いた。ここで得た貴重な経験を糧にがんを標的とするプローブ開発研究に邁進し、基礎研究だけで終わらない真に臨床医療に貢献できる成果を目指していきたい。最後に、このような貴重な機会を与えて頂き、文部科学省新学術領域研究「がん支援」国際交流委員会の諸先生方に心より感謝申し上げます。