概要・活動内容

国際交流委員会

Keystone Symposia on Angiogenesis: Advances in Basic Science and Therapeutic Applicationsに参加して

東京大学先端科学技術研究センター システム生物医学
大澤 毅

はじめに

平成23年度新学術領域研究「がん支援」国際交流委員会からの助成により、平成24年1月16日から21日までの6日間にわたり開催された“Keystone Symposia on Angiogenesis: Advances in Basic Science and Therapeutic Applications”(Snowbird・Utah, USA)に参加させて頂いた。血管新生“Angiogenesis”は、癌の増殖において必須であり、1970年代にFolkmanらによって、癌の血管新生を抑えることが新しい癌治療法になることが提唱された。1990年代に入り、Ferraraらは、血管新生を促進する因子(VEGF)を発見し、これを中和する抗体を開発することに成功した。現在、様々な癌腫において癌分子標的治療薬として臨床応用されている。一方で、血管新生阻害療法の効果は、必ずしも期待された成果が得られていないのも現状である。この会議は、Ferrara N (Genentech, Inc.), Eichmann AC (College de France; Yale University) , Walsh K (Boston University)らによってオーガナイズされ、血管新生における基礎的な新しい知見とその臨床応用における改善点や新しい試みについて議論された。私自身も腫瘍血管新生の新しい分子機構とその治療標的(New Mechanisms and Therapeutic Targets for Tumor Angiogenesis)と題する若手セッションにおいて口頭発表の機会を頂いた。以下に会議の内容を概略したい。


図1.シンポジウムの開かれたロッジの自室の窓からの風景

標高2000m超の山の中腹のロッジに到着し、寒さ、時差ボケ、息苦しさで意識が朦朧としている中、Ferrara Nの開会の挨拶があり会議が始まった。最初のKeynote Lectureでは、Alitalo K (University of Helsinki)が血管新生の主要な経路であるVEGFの受容体2 (VEGF-R2)とリンパ管新生において重要な役割を果たすVEGF-C,-Dの受容体であるVEGF-R3を同時に阻害することにより相乗的な抗腫瘍効果が得られることを報告した。このことは、腫瘍の増殖において血管新生のみならずリンパ管新生の両方が重要な可能性を示唆している。胎生期の血管新生のシグナルはキナーゼ活性の強いVEGF-R2が促進し、逆に、VEGFとの結合活性の強いVEGFの受容体1(VEGF-R1)はVEGFトラップとして血管新生を抑制する役割を果たす。Shibuya M (University of Tokyo)は、骨髄由来の免疫細胞(単球、マクロファージ)がVEGF-R1のシグナルを介して腫瘍組織に誘導され血管新生を促進することを報告した。また、Iruela-Arispe M (UCLA)は、活性酸素によってVEGF-R2がVEGFのリガンドに非依存的に生存シグナルを送ることを見出した。


最近では血管新生においてVEGFの基本的シグナルに加えて、様々なシグナル伝達経路が研究されている。例として、血管内皮細胞がDll4-Notchのシグナル伝達系により血管網の形成を誘導する最前列の細胞(Tip細胞)、および後続する2列目の細胞(Stalk細胞)とに分かれるということが挙げられる。Adams RH (Max Plank Institute)がTip-Stalk細胞の分子機構の詳細を紹介し、さらにEichmann AC (Yale University)はBMP9がAlk受容体を介してTip-Stalkの形成を抑えるという新しい知見を報告した。Tabar V (Memorial Sloan Kettering)は、脳腫瘍における癌幹細胞自身(CD133+,CD144+)がNotchシグナルと血管新生阻害により血管内皮細胞様に形質変化する事を見出し発表した。また、Byzova TV (Cleveland Clinic)は、炎症性のToll like Receptor (TLR) 2がVEGF-R2に非依存的な血管新生を促進することを報告した。


受容体シグナル伝達経路以外に、血管新生における転写制御の研究は盛んに行われている。低酸素下の癌細胞において低酸素誘導因子(HIF-1α)はVEGFの発現を誘導する主要な転写因子である。Semenza GL (Johns Hopkins University)は、HIF-1αが、骨髄由来の血管新生細胞(BMDAC)を腫瘍組織へ導引することを発表した。この知見は低酸素下でのHIF-1αが酸素センサーとしての働きだけではなく、腫瘍微小環境形成においても重要な役割を果たすことを意味している。また、これまで低酸素においてHIF1とHIF2は同様の働きをすると考えられてきたが、Simon MC (University of Pennsylvania)は、低酸素下におけるHIF1とHIF2の働きが異なる可能性を示した。私自身も低酸素・低栄養によって癌細胞が悪性化し、低酸素、及び低栄養に誘導されるヒストン脱メチル化酵素が腫瘍血管新生を制御し血管新生阻害剤との併用において相乗的に抗腫瘍効果を示すことを発表した。


腫瘍微小環境が血管新生を促進することが最近分かってきた。腫瘍組織に浸潤するマクロファージ細胞(TAM: Tumor associated macrophage)が、血管新生を促進することが知られている。Mazzieri R (San Raffaele Telethon Institute)は、TAMの新しい細胞抗原標識(Tie2+, Mrc1+, F4/80+)が存在することを発見した。また、Ellis LM (MD Anderson Cancer Center)は、大腸癌細胞を内皮細胞と共培養すると癌幹細胞(CD133+,CD44+)の割合が増加することを見出し癌幹細胞と血管の関係を示した。Kulluri R (Harvard University)は、線維化(Fibrosis)と癌の悪性化が相関することを示した。もともと正常な血管に比べ、腫瘍血管は壁細胞(pericyte)が少なく脆弱な血管を形成している。Kulluri Rは血管壁細胞が欠失することが癌転移を促進することを報告した。Carmeliet PF (University of Leuven)は、代謝経路が血管新生阻害の新しい標的になる可能性を示唆した。また、Erikson UPE (Karolinska Institute)は、VEGF-Bが血管内皮細胞における脂肪の取り込みを促進するなど、VEGFと脂肪代謝の関連を明らかにした。また、Koh GY (KAIST)は、Tie2とVEGF-R2のシグナルを同時に止める新しい抗体(DAAP)を開発し、新しい血管新生阻害剤を提唱した。最後にFerrara N (Genentech)やKerbel RS (University of Toronto)、Rini BI (Cleveland Clinic)らは、血管新生阻害療法の臨床データや新しい治療プロトコールについて議論し新しい血管新生阻害療法の方向性を我々に示してくれた。


現存する血管新生阻害療法の標的であるVEGFとその受容体の経路だけではなく、新しいシグナル伝達系や腫瘍微小環境や癌の代謝などが血管新生に重要な役割を果たすことが討論された。現行の血管新生阻害療法をさらに改良した次世代の癌治療法がこの血管研究から開発されつつある。この会議に出席して、我々の研究も含めさらなる飛躍の可能性が期待できる研究分野であることを再認識した。


ポスター発表会

図2.毎晩、軽食を食べながらポスター発表が行われた。

おわりに

今回、初めてKeystone Symposiaに参加させていただいた。低酸素環境で息苦しさと時差ボケは最後まで続いたが、山籠もり修行に近い素晴らしい(?)環境の中、毎日、研究について夜遅くまで討論が続いた。この会議で、海外の著名な先生たちや若手研究者、海外で活躍している日本人研究者と国際交流ができたことは、国際的な共同研究にもつながる可能性がある素晴らしい経験になったと思う。このような機会を与えて頂きました、文部科学省新学術領域研究「がん支援」国際交流委員会の諸先生方に心から感謝致します。