概要・活動内容

国際交流委員会

中国第二軍医大学肝幹細胞単離グループとの共同研究

九州大学 生体防御医学研究所 ゲノム腫瘍学
王 嘉

はじめに

今回、新学術領域研究「がん研究分野の特性等を踏まえた支援活動」国際交流委員会海外派遣の助成をいただき、平成23年1月11日から15日までの期間、共同研究のため、中国・上海の中国第二軍医大学細胞生物学講座へ訪問した。今回の共同研究では、私はマウス肝幹細胞の単離、培養の技術を習い、肝幹細胞から肝実質細胞や胆管上皮細胞への分化誘導の手法を習得する機会を得ることができた。本稿では、肝幹細胞から胆管細胞への分化のメカニズムについての概説を行い、さらに上海で習得した実験手法を述べる。

肝幹細胞から胆管細胞への分化

肝臓は成体における主要な代謝器官であるとともに再生能力を揃えた臓器である。成体の肝細胞はほとんど増殖しないが、肝障害時には、成熟肝細胞が分裂増殖し、肝再生が行われる。しかし、劇症肝炎や非代償性肝硬変などの重症の肝障害時には、成熟肝細胞の増殖は抑制され、新たに出現した幹細胞(オバール細胞)が肝再生を担っている。オバール細胞は、門脈領域のへリング管から発生した胆管系細胞で、肝細胞と胆管細胞へ分化する二分化可能な細胞であり、オバール細胞が過剰増殖になると肝細胞がんと胆管上皮細胞がんが発症すると報告している。

肝幹細胞から胆管上皮への分化について、明らかにされているのはTGFβ/ActvinやNotchシグナルである。TGFβ2, TGFβ3は主に門脈領域に高発現しており、胆管上皮の形成に必須である1,2。一方、門脈領域の肝幹細胞でNotch2を過剰発現したところ、胆管上皮細胞の分化を引き起こすことが報告されている3。
また近年、Hex, Sall4, HES1, HNF6, HNF1β, Tbx3, FoxA2/3, FoxM1b, WW45の遺伝子変異マウスの研究により、これらの分子は胆管分化や形成に大切な役割を担うと考えられている4-12。しかし、以上の分子は相互にどういった関連があるのか、どうように胆管分化を制御しうるのかは未だ不明である。

肝幹細胞から胆管上皮への分子機序を明らかにするために、オバール細胞の分子細胞生物学的研究を展開する必要がある。生体に存在するオバール細胞の性質を有する細胞株を樹立することができると分子細胞レベルでの検討は可能である。中国第二軍医大学の胡以平教授は世界に先駆けて胆管、肝細胞の分化誘導可能なオバール細胞株を樹立し、数多くの論文を発表した。われわれは同教授らと共同研究を通し、肝幹細胞から胆管細胞への分化に関わる分子制御機構を解明するとともに、これらの分子は癌治療の標的分子候補となり、肝幹細胞株やモデルマウスは治療開発に必須なツールとなる。

上海・胡以平教授の研究室で習得したこと

胡以平教授らはretrosine/partial hepatecomy法13でマウスの肝臓に損傷を与え、オバール細胞の増殖を引き起こす。その後、Two-step collagenase方法でオバール細胞を含むフラクションを抽出し、そこに含まれるオバール細胞由来のコロニーを単離した。得られた細胞は肝幹細胞の未分化なマーカーであるThy-1やc-kitの発現が維持されていた。またmatrix MatrigelでEGFを添加することによって、この細胞はAlbumin+ Glutamine synthetase+ CK19-を示し、大量のミトコンドリアを有することから、肝実質細胞への転化可能である。一方、HGFを添加することによってAlbumin-Glutamine synthetase-CK19+となり、樹状生長形態を示すことから胆管細胞へも転化可能である8。私は胡教授の研究室でオバール細胞や誘導分化した細胞の形態を観察した。分化誘導条件等の詳細をご教示いただいた。培養条件誘導系の方法を説明してくれた。


王先生

おわりに

今回上海第二軍医大学での交流は私にとって非常に貴重な体験となった。胡教授らによって樹立されたオバール細胞株の形態を直接観察することができ、同教授から分化誘導等の実験手法を教授いただいた。さらにこの細胞株を供与していただき、この細胞株を用いてオバール細胞分化や増殖の分子制御機構や肝実質細胞、胆管細胞への分化に関わる経路を明らかにすることが期待でき、非常に意味深い交流ができたと感じている。



参考文献:

  1. Antoniou A, Raynaud P, Cordi S, Zong Y, Tronche F, Stanger BZ, Jacquemin P, Pierreux CE, Clotman F, Lemaigre FP. Intrahepatic bile ducts develop according to a new mode of tubulogenesis regulated by the transcription factor SOX9. Gastroenterology 2009;136:2325-2333.
  2. Clotman F, Jacquemin P, Plumb-Rudewiez N, Pierreux CE, Van der Smissen P, Dietz HC, Courtoy PJ, Rousseau GG, Lemaigre FP. Control of liver cell fate decision by a gradient of TGF beta signaling modulated by Onecut transcription factors. Genes Dev. 2005;19:1849-1854.
  3. Tanimizu N. and Miyajima A. Notch signaling controls hepatoblast differentiation by altering the xpression of liver-enriched transcription factors. J. Cell. Sci. 2004;117, 3165_3174.
  4. Clotman, F, Lannoy, V.J, Reber, M, Cereghini, S, Cassiman, D, Jacquemin, P, Roskams, T, Rousseau G.G. and Lemaigre F.P. The onecut transcription factor HNF6 is required for normal development of the biliary tract. Development 2002:129, 1819_1828.
  5. Coffinier C, Gresh L, Fiette L, Tronche F, Schutz G, Babinet C, Pontoglio M, Yaniv M and Barra J. Bile system morphogenesis defects and liver dysfunction upon targeted deletion of HNF1beta. Development 2002:129, 1829_1838.
  6. Hunter M.P, Wilson C.M, Jiang X, Cong R, Vasavada H, Kaestner K.H, and Bogue C.W. The homeobox gene Hhex is essential for proper hepatoblast differentiation and bile duct morphogenesis. Dev. Biol. 2002:308, 355_367.
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  8. Krupczak-Hollis K, Wang X, Kalinichenko V V, Gusarova G.A, Wang I.C, Dennewitz M.B, Yoder H M, Kiyokawa H, Kaestner K H, and Costa R H. The mouse Forkhead Box m1 transcription factor is essential for hepatoblast mitosis and development of intrahepatic bile ducts and vessels during liver morphogenesis. Dev. Biol.2004:276, 74_88
  9. Li Z, White P, Tuteja G, Rubins N, Sackett S, and Kaestner K H. Foxa1 and Foxa2 regulate bile duct development in mice. J Clin Invest. 2009 Jun;119(6):1537-45.
  10. Oikawa T, Kamiya A, Kakinuma S, Zeniya M, Nishinakamura R, Tajiri H, and Nakauchi H. Sall4 regulates cell fate decision in fetal hepatic stem/progenitor cells. Gastroenterology 2009:136, 1000_1011.
  11. Suzuki, A., Sekiya, S., Buscher, D., Izpisua Belmonte, J.C., and Taniguchi, H. Tbx3 controls the fate of hepatic progenitor cells in liver development by suppressing p19ARF expression. Development 135,1589_1595.
  12. Lee KP, Lee JH, Kim TS, Kim TH, Park HD, Byun JS, Kim MC, Jeong WI, Calvisi DF, Kim JM, Lim DS. The Hippo-Salvador pathway restrains hepatic oval cell proliferation, liver size, and liver tumorigenesis. Proc Natl Acad Sci U S A. 2010 May 4;107(18):8248-53.
  13. Li WL, Su J, Yao YC, Tao XR, Yan YB, Yu HY, Wang XM, Li JX, Yang YJ, Lau JT, Hu YP. Isolation and characterization of bipotent liver progenitor cells from adult mouse. Stem Cell 2006;24:322-332.